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第80話

 8ー12 おとりですか?  「いやぁあぁっ!来ないでぇっ!」  俺は、森の中を必死で走っていた。  俺の後ろからは、巨大な猪のような魔物が追いかけてきていた。  もう少しで、追いつかれる!  俺は、ぎゅっと目を閉じた。  そのとき、急に頭上から雄叫びと共にクーランドが飛び降りてきた。  「きえぇえぇいっ!」  クーランドの一撃を受けて、猪の魔物は、頭を割られて地響きをたてて崩れ落ちた。  「やった!」  俺は、汗を拭いながらほっと息をついた。  「すごいな、お前たち」  茂みに隠れていたアルバアートおじさんが出てくると手早く魔物の解体を始めた。  「今夜は、ここで夜営するぞ。セツとグレイシアは、水を用意してくれ」  「かしこまり!」  俺たちは、魔物の解体をしているおじさんたちの側で火をおこし、カバンから出した銅の鍋に水をくんだ。  「しかし、うまくいったな」  クーランドが鍋の水をコップですくって飲みながら近くの倒木へと腰を下ろした。  「すべては、セツのおかげだな」  「いや、俺は、何もしてないし」  俺は、おじさんに教えられたキノコを集めながら答えた。  うん。  実際、俺は、ほぼ何もしていなかった。  ただ、魔物を引き寄せてるだけだった。  「いえ、セツさんは、すごいです」  木陰から白い髪の美しいお姉さんが薪の束を持って姿を現した。  足元には、同じ色の髪をしたチビッ子がまとわりつきながら落ち葉を運んでいる。  「セツ、しゅごい!ゴウラ、セツ、しゅきぃっ!」  「そうか」  俺は、しゃがみこむとゴウラの頭を撫でてやった。  「ゴウラは、いい子だな」  「うん、ゴウラ、いい子!」  俺たちは、そこで輪になって腰かけるとキノコと猪の魔物の臓物煮を食べた。  うん。  もつ鍋みたいでなかなかおいしいな。  俺たちは、はふはふしながら腹一杯になるまでおかわりしていた。  「今日は、かなりの収穫があったな」  アルバートおじさんが食事の後のお茶のカップを手にちらっと白髪のお姉さんの方を見た。  「それもこれも、あんたが力を貸してくれたおかげだな、森の王よ」  「もう、王ではありません。ラクシアと呼んでください」  お姉さんが応じた。  「どんな理由であれ、私は、仲間を裏切りました。もう、この森の王ではありません」  そう。  この森の王であった白狼ラクシアさんは、死を前にして俺たちと取引をしたのだ。  『なんでも願いを叶えよう』  そう、あのときラクシアさんは、俺に言った。  『そのかわり、この子の命だけは助けて欲しい』  そういうわけで、俺は、ラクシアさん親子をテイムすることにした。  だって、こんな小さな子供から親を取り上げるなんてできないだろ?  俺の話をきいたアルバートおじさんは、もちろん反対した。  そんなことするより、白狼の死体をギルドに売る方が利があるからだった  そこで、俺は、かわりになりそうな獲物をとらえることを提案したというわけだった。  だが、ただ、獲物を呼び寄せるわけにはいかず、ラクシアさんによるとめっちゃ美味しそうな匂いを醸しているらしい俺をおとりにして狩りをすることになったのだった。  

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