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第89話
9ー8 これから始まるんだ!
俺たちの出発にさいしてアザゼルさんは、魔王連合ギルドの立派な馬車を貸し出してくれた。
必要な荷物を馬車に積み込むと、俺たちは、御者をつとめてくれる人に挨拶をした。
うん。
警備の人も含めて3人も来てくれるんだ。
ちょっとみんな内気な人たちで、ずっと俺から顔を隠すようにしてうつむいていた。
それから、俺たちは、馬車に乗り込んだ。
俺たちの出発をアザゼルさんは、見送ってくれなかった。
昨夜。
アザゼルさんに俺は、いつものように抱き潰された。
というか。
いつもよりも執拗に?
朝、目覚めると隣にアザゼルさんがいた。
いつもは、俺が眠るとさっさと部屋から出ていくのに。
「ほわぁっ!」
驚いていた俺を抱き寄せてキスで口を封じたアザゼルさんは、俺の少し膨らんできた腹をそっと撫でた。
「だいぶ、大きくなってきたな、セツ君。くれぐれも体を大切にしてくれ。君は、我々魔王の希望の光でもあるのだからね」
ベッドに起き上がった俺の腹にキスしてアザゼルさんが優しく囁いた。
「はやく大きくなれ。そして、母上をお守りするんだぞ」
うん。
なんでかな。
その言葉をきくと、なぜか、俺は泣きそうになった。
この人には、いい意味でも悪い意味でも本当に世話になったし。
俺は、小声で呟いた。
「ありがとうございます、アザゼルさん」
「ふん」
アザゼルさんは、俺をぎゅっと抱き寄せると首もとにかぷっと噛みついた。
「そんな甘いことを言えるなんて、調教が足りなかったかな?セツ君」
「そ、それは」
俺があわあわしているのを見てアザゼルさんは、声をあげて笑った。
「本当は、ここで君には子供を産んで欲しかった。けど、トリムナードをいつまでも魔王不在にするわけにはいかなくてね。無理をさせるけど、すまない」
「セツ!見ろよ!ルミニスの外へ出るぞ!」
クーランドの声に俺は、はっとして窓の外を見た。
王都の町並みが遠退いていく。
アザゼルさんも。
ロイのことも。
俺は、そっと睫をしばたいた。
泣くな、俺!
これからが、始まりなんだ!
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