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第88話

 9ー7 憎みきれない  いよいよ俺たちの出発する日が決まった。  俺とトリムナードに行くのは、アルバートおじさんにグレイシア、クーランド兄弟、それに俺の使い魔であるラクシアとゴウラ親子。それに、自ら志願してくれたというワチさん。  「これから、出産を控えておられるし、きっと女手が必要になる筈ですから」  そう、ワチさんは、言ってくれた。  本当に、嬉しいことだった。  ああ。  そう言えば、他にも約1名いや、1柱、望まれない同行者がいたな。  俺は、スマホ女神のネックレスを身につけた。  全ての原因を作った奴だが、どうにも憎みきれない奴だった。  それは、俺たちが出発する3日前のことだ。  1人の年老いた修道女が魔王連合ギルドを訪れた。  老女は、俺にバケツ一杯ほどのルリの実を渡すためにわざわざ王都の西の端の小さな町から歩いてきてくれたのだという。  ルリの実というのは、どんぐりとよく似た木の実でこの世界では旅人の携帯用の非常食として重宝されるものだった。  「これは、うちの教会の子供たちがみんなで集めたものです」  老修道女は、俺に語った。  「こんなものではあなた方のしてくださったことの御恩は、到底お返しすることができるとは思えません。ですが、せめてもの思いだけでもお受け取りくださいませ」  はい?  俺は、ハトマメで老女に尋ねた。  「何のことですか?」  「実は」  老修道女は、俺にことの次第を話した。  数ヶ月前のことだ。  とある貧しい教会を救うために孤児の兄妹が奴隷商に売られることになっていた。  その兄妹は、売られていく前日に教会で女神に祈りを捧げていた。  どうか、教会のみんなをお守りください。  それを聞き付けたのがうちのスマホ女神をだった。  スマホ女神は、兄妹の代わりに俺を売り飛ばしその金を教会に寄付したのだという。  「おかげさまで、この冬は、みな飢えることもなく、暖かく過ごすことができました」  雨漏りも直せましたし、困っている信者たちの力にもなることもできました・・と、いつまでも続ける老修道女を俺はさえぎった。  こんなこと言われたら、もう怒れないじゃないか。  よくよく話を聞くとこの老修道女のいる教会が、スマホ女神の現存する唯一の教会だったらしい。  俺は、領地トリムナードがいつか豊かな土地になれば、すぐに教会のみんなを呼び寄せる約束をした。 

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