87 / 167
第87話
9ー6 時は移ろいで
それから俺たちは、朝夕、魔王連合ギルドの送り迎えつきで冒険者ギルドに顔を出すようになった。
送り迎えつきの冒険者とかみんなに揶揄されたけど俺は、まったく気にしなかった。
だが、アルバートおじさんは、そっと俺に頭を下げた。
「すまなかった。俺の判断が甘かったばかりにお前に苦労かけて」
「いいんだ」
俺たちは、今は、冒険者であることが必要だった。
金のためだけじゃない。
精神的にも、肉体的にも強くなるためには、それが必要だった。
俺とアザゼルさんの間の取り決めで、俺たちが冒険者を続けることは許可されていた。
そして。
その代わり、俺は、毎夜アザゼルさんに抱かれることになった。
この取り決めのことを知っているのは、アルバートおじさんと、グレイシアだけだ。
クーランドたちは、知らなかった。
でも、クーランドたちも何か、感じ取っている様子だった。
俺たちは、それからしばらくの間の日々を、冒険者としての探索に費やしていた。
そのかいもあってか、俺たちは、そこそこの大金を稼ぐことに成功した。
全部で5億ジーズ。
これは、充分に俺を奴隷から解放することのできる金額だった。
まあ、たぶん、アザゼルさんたちは、どれだけの金を積もうとも俺を解放することはないだろうけどね。
だから、俺は、考えた末に俺以外の奴隷から解放していくことにした。
つまり、アルバートおじさん、グレイシア、クーランドを解放してもらうことにした。
その事を事前に3人に伝えたのだが、これは、全員に却下された。
「この金は、温存しておくべきだ。俺たちは、奴隷だ。だから、他の連中が俺たちを捕らえたり危害を加えたりすることが不可能なんだ。そんなことをすれば魔王連合ギルドを敵にまわすことになるからな。つまり、奴隷でいる間は、俺たちは、魔王連合ギルドに守られているということになる」
「なるほど」
アルバートおじさんの言葉に、クーランドたちが頷いた。
「それに」
アルバートおじさんは、付け加えた。
「これから俺たちが向かうトリムナードは、けっこう酷いとこだっていうじゃないか。金は、あっても困ることはない」
俺たちは、2億ジーズで旅に必要な装具や当分の食料やらなんやらを購入して収納用のカバンへと入れておくことにした。
いつの間にか季節は、移ろっていた。
魔王連合ギルドの中庭に薄いピンク色の桜によく似た花が綻び始めていた。
王都ルミニスに春が訪れようとしていた。
それは、同時に俺たちが領地トリムナードへと旅立つ日が近づいているということだった。
ともだちにシェアしよう!