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第91話
10ー2 従僕
『クロノス亭』は、普通の宿屋だった。
1階が酒場で、2階から上が宿屋になっていた。
酒場は、まだ時間も早いのにも関わらず、もうすでに客で溢れていた。
女将は、俺たちを宿屋の3階にある部屋へと案内してくれた。
そこは、女将いわくこの宿屋で1番いい部屋だった。
うん。
白を基調とした、広くて清潔な部屋だ。
ソファの前のテーブルにはウェルカムドリンクもあったりして、たぶん、すごくいい部屋なんだろう。
というか、お高そう。
俺は、女将に訊ねた。
「あの、この部屋、従魔は、一緒に泊まれます?」
「従魔ですか?」
女将は、答えた。
「厩戸の横に従魔用の宿舎がありますが、大人しければ別にお客様と一緒のお部屋でもかまいませんよ」
「そうなんだ」るほ
俺は、少し考えてから、ラクシア親子のために一部屋借りることにした。
昼間は、狭い竜車の中で我慢してもらっていたんだし、せめて夜だけでもゆっくりさせてやりたかった。
女将は、特別に許可してくれた。
もちろん、お礼も忘れなかったけどね。
俺は、女将に料金を前払いしようとしたが、女将は、それを断った。
「もう、お部屋の代金はいただいておりますから」
はい?
俺が問うと女将が答えた。
「はい。確かに、そちらの従僕の方から充分すぎるほどの料金をいただいております」
従僕?
俺は、はたっと気づいた。
御者のダイさん?
たぶん、御者のダイさんがアザゼルさんの命で支払ってくれてたんだろう。
俺は、ほろっとした。
アザゼルさん。
馬車を貸してくれただけじゃなくって旅費まで出してくれるんだ?
俺は、嬉しかったけど、不安でもあった。
マジで、いいわけ?
俺が悩んでいると、アルバートおじさんがぽんっと俺の頭を撫でた。
「まあ、いいじゃないか。せっかくだからありがたく泊まらせてもらおう」
おじさんに言われて、俺も頷いた。
でも。
ただより高いものはないんだけどな。
俺たちは、それぞれ部屋へと別れた。
食事は、1階の酒場で食べれるようだし、風呂も各部屋についていた。
まあ。
俺は、ふぅっと微笑んだ。
ここは、素直に感謝しておこう。
ありがとうございます、アザゼルさん。
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