96 / 167

第96話

 10ー7 魔王のお宅訪問  その日も1日、竜車は、走り続けた。  俺は、竜車の揺れに体をまかせてついうとうととしてしまっていた。  だって。  俺は、昨夜のことを思い出して顔が熱くなるのを感じていた。  夢うつつの中、ラミーさんの指先が俺に触れたような気がしていた。  俺は、全身が火照って。  夢の中で、まだ、俺は、誰かに抱かれていた。  そして。  次に気がつくと、俺は、何か固いものを枕にして眠っていた。  「んっ・・」  「目ぇ覚めたのか?セツ」  はい?  俺の頭上からクーランドの声がして俺は、はっと息を飲んだ。  マジで?  俺は、頭上を見上げた。  クーランドのいかつい顔が目に入った。  わわっ!  俺ってば、クーランドの膝枕で眠ってた?  俺が飛び起きようとするのを、クーランドが押さえ込んだ。  「ゆっくり寝てろよ。疲れてんだろ?セツ」  「で、でもっ!」  「いいから」  クーランドは、俺に膝枕したまま優しく俺の髪に指を滑らせた。  ほぇっ?  なんで、こんなことに?  俺は、クーランドの膝の上から前の座席に座っているアルバートおじさんとグレイシアを見た。  うん。  2人ともなぜか、微笑ましげに目を細めていた。  俺は、最初、緊張のあまりに眠るどころじゃないだろうと思っていた。  だが、クーランドに優しく髪を愛撫されているうちに自然と目蓋が閉じてきて知らないうちに眠ってしまっていた。  俺が次に目覚めたのは、見知らぬベッドの上でだった。  うん?  俺は、起き上がると周囲を見回した。  ここ、どこですか?  なんか、小綺麗な民家の一室のような部屋だった。  「セツさま、起きられました?」  ワチさんが俺に暖かいいい香りのするお茶を入れてくれた。  カップを手渡されて俺は、くんくんと鼻をうごめかした。  いい香りだ。  オレンジの香りだ。  日向の匂いがした。  俺は、一口お茶を飲んだ。  おいしい。  俺は、ほっと一息ついてからワチさんに訊ねた。  「ここは?」  「ここは、このロナウド領のご領主であるロートナム・ロースさんのお屋敷でございます」  ワチさんの言葉をきいて、俺は、ワチさんのことを思わず2度見していた。  はい?  魔王のお宅ですと?

ともだちにシェアしよう!