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第98話

 10ー9 最高のおもてなし  熊の魔人は、俺にロートナム・ロースと名乗った。  その夜は、魔王自らが俺たちをもてなしてくれた。  といっても、食卓に並んでいるのはロースさん宅の手作り野菜スープと所々黒く焦げている固そうなパンだけだった。  うん。  粗食だな。  俺は、腹が空いていたので喜んで夕食に手をつけた。  結論から言おう。  それは、決しておいしいとは言えなかった。  パンは、焼きすぎで焦げて固かったし、スープは、味が薄すぎて野菜の入ったお湯のようだった。  ロースさんは、俺たちに申し訳なさげに頭を下げた。  「すみません。女房が死んでから、俺が家事をしているんですが、今だに上達しなくって」  ロースさんの話では、3年ほど前に奥さんが亡くなって以来、彼が1人で残された子供を育てていた。  このロナウド領は、めぼしい産業もなく、塩さえも自由に買えないぐらい貧しかった。  「私は、落ちこぼれでね」  ロースさんが話してくれた。  「魔王とは名ばかりで、私は、無能なんです」  なるほど。  俺は、鑑定スキルでロースさんを見た。  が、ただの熊の獣人でしかなかった。  ロースさんは、この地で農民として大地を耕して生きていた。  まさに、地の塩のような人だった。  ほんとに、好い人だと俺は、思った。  俺は、せめてものおもてなしに感謝した。  うん。  この異世界にきてから食った飯の中でも最高にうまい飯だ。  ロースさんは、うまそうにパクついている俺を見て照れたように笑った。  「でも、突然、無理を言って申し訳なかったです」  俺は、食後にリビングでクーランドと遊んでいるラーズの姿を微笑ましく眺めながら、ロースさんにお詫びをいっていた。  ロースさんは、俺にあのおいしいオレンジの香りのするお茶を入れたカップを渡すと頭を振った。  「いえ、聖母様であるセツ様をお泊めすることができるなんて、光栄です」  うぅっ。  俺は、ロースさんに言われて苦笑していた。  好きでなったわけじゃねぇんだがな。  「今日は、お疲れでしょうし、もう、お休みになられますか?」  ロースさんが俺に声をかけてくれたので俺は、頷いた。  なんか。  俺は、違和感を感じていた。  全身が、熱い。  頭がぼうっとして。  体の熱は、俺の奥深くを刺激していた。  なんか、変?  俺は、触れられただけでも堪えられそうになかった。  「はふっ」  もうこれ以上は、堪えられそうにない。  俺は、ロースさんの言葉に甘えることにした。  

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