99 / 167
第99話
10ー10 一宿一飯の恩義ですか?
俺は、ロースさんの案内で寝室へと向かった。
といっても、最初に通された部屋に戻ったわけだが。
部屋に戻るとワチさんが俺たちに礼をした。
「それでは、私は、失礼いたします。ご用があれば、いつでもお声をかけてくださいませ」
部屋から出ていくワチさんを見送るとベッドの側にあった椅子に腰かけた。
体に甘美な痺れが走った。
俺は、椅子に座っただけで極めてしまった。
マジでか?
どうしちゃったの?
俺。
「大丈夫ですか?セツ様」
ロースさんは、俺の足元に跪くと俺の膝の上に手を置いて、俺のことを覗き込んだ。
俺は、焦ってロースさんの手を払おうとした。
けれど、ロースさんはがっしりと俺の手を握って離そうとはしなかった。
「あ、あの、ロースさん?」
「セツ様」
ロースさんが俺の膝に額を擦り付けた。
「どうか、今宵、ご奉仕させてくださいませ、セツ様」
はいぃっ?
ご奉仕ですと?
ハトマメの俺にロースさんが真剣な表情で語りだした。
「私は、魔王ですが名ばかりで決して目立つ方でもなく、この土地もまた、裕福なわけではありません。
毎日、この地で農民たちと共に農地を耕して息子と二人で精一杯生きております。こんな私が聖母様の糧となれるというのであれば、こんなに嬉しいことはございません」
ロースさんは、跪いても俺と目線の高さが変わらなかった。
「数年前に妻が病で亡くなってから、ずっと、息子ラーズを守って2人で生きて参りました。私は、この子を守るためならばどんな悪にだってなることを厭いません」
ロースさんは、俺の手を握って祈るように目を閉じた。
「どうか、どうか、この町を、息子を、息子の生きる世界を守るために私の力をお使いください」
マジですか?
俺は、ラースさんに訊ねた。
「そのために、俺に、媚薬を盛ったのか?」
「それは」
ロースさんが言葉を濁した。
「私のような醜い大男では、あなたがおイヤだろうと思いました」
「なんで?」
俺は、ロースさんを見つめてため息をついた。
「仕方がないな。一宿一飯の恩義があんたには、ある」
ともだちにシェアしよう!