145 / 167

第145話

 14ー2 吾妻よ!  「お前がなんと言おうと、お前も、お前の子も私の物だよ、セツ」  エイダスが俺の頬へと手を伸ばして触れてきた。  「その証に、お前は、私を拒むことができない」  エイダスが冷たい指先で俺の唇に触れた。  背筋がぞくっとして。  俺は、吐き気がしていた。  なのに、俺は、動けなくって。  エイダスは、俺の唇を開かせると、口中へと指を入れてきた。  「このかわいい唇も、舌も、全てが私の思うまま、私を求めてくるのだからな」  俺は、無意識のうちに奴の指を舌で舐め、ちゅぅっと吸い付いていた。  なんでっ!  俺は、目尻に涙が滲んでいた。  嫌で嫌でしょうがないのに!  こんなこと、したくもないのに!  俺は、懸命にエイダスの差し出した指を舐めながら、嗚咽を漏らした。  エイダスは、俺に囁いた。  「いい子だ。今宵、我々は、真に結ばれる。本物の揺るぎない夫婦となるのだ、セツ・グレイアムよ」  「んぅっ・・」  ちゅぽん、と音をたてて抜かれた指を俺の舌が名残惜しげに追いかけた。  俺は、本当に嫌で。  涙が溢れる。  その涙をエイダスは、指先で拭うと、それを舌でペロッと舐めた。  「今夜、お前が哭くのは歓喜の涙となるだろう。たっぷりと可愛がってやる。楽しみにしているがいい、我妻よ」  俺は、口許きけなくって。  ただ、ぼんやりと立ち尽くしていた。  その俺の頬へと、エイダスは、口づけをした。  「愛しているぞ、セツ」  足音が遠ざかり、奴が部屋を出ていく。  俺は、呪縛から放たれたようにその場に崩れ落ちた。  涙が。  溢れてくる。  俺は、慟哭した。  なんで?  なんで、俺は、あんな奴に好き勝手にされるんだ?  「セツさん・・」  スィラが俺の肩へと手を置いたのを、俺は、振り払った。  「触るな!」  スィラは、俺を一瞬、傷ついた子供みたいな目をした。  俺は、涙を拭うと立ち上がった。  「お前、全てを知ってて俺をここに連れてきたんだろう?なら、全部、話せ!知ってることを丸っと全部、だ!」  「しかし」  スィラが迷っているのに、俺は、食い下がった。  「話せよ!全部!俺は、全てを知る権利があるだろ!」

ともだちにシェアしよう!