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第146話
14ー3 復讐鬼
「かつて我々が生まれる前に大きな戦があったそうです。それは、この世界の女神アルトディアの加護を受けし1人の魔人と人類の戦いだったそうです」
スィラは、話し出した。
「我々のノイスジーラ王国もまた、この魔人との戦いに参加しました」
それは、1人の女神に愛されし魔人と世界との戦いだった。
世界各国の派遣する勇者のパーティのうちの1つがノイスジーラ王国のものだった。
俺のおじであるアルバート・グレイアムを勇者として組まれたそのパーティは、みごとに魔人を討ち果たした。
その時のパーティのメンバーがスィラの母であり、聖女であるカーミラと、聖騎士であり、当時王太子であったスィラの父であるルイズ・ノイスジーラ、そして、カーミラの兄であった賢者エイダス・フロウだった。
「勇者のパーティは、無事に魔人の討伐を果たしました」
スィラは、俺を抱き上げ座り心地のいいソファに座らせると自分も隣に腰を下ろした。
「ですが、その過程でエイダスは、魔人の呪いを受け、古のダンジョンの奥深くへとたった1人囚われることとなりました」
エイダスは、パーティの面々を最後にかばって、1人、魔人の呪いを受けたのだという。
光りも、時間もない闇の中で、ただ1人囚われたエイダス。
毎日繰り返される魔人の呪いによる死と再生。
苦しみのうちにエイダスは、自分が何者かもわからなくなった。
そんな彼を救ったのは、女神アルトディアだった。
アルトディアは、彼の救済への望みを聞き入れ、彼を救い加護を与えた。
「そうして、数年後、エイダス・フロウは、この地に帰ってきた」
スィラは、じっと前を見つめていた。
「だが、地獄より女神の加護を受け戻ってきた賢者エイダスは、以前の優しく、思いやり深い彼ではなくなっていたのです」
たった1人で闇の中で過ごした数年間が、彼を復讐鬼に変えていた。
「エイダスは、言葉巧みに人々を導き、己の復讐を遂げていきました」
まずは、聖女カーミラとその座を争った俺のお袋であるクレア・グレイアムを聖女に対する不敬の罪で断罪し、追放した。
「そして、その兄である勇者アルバート・グレイアムにも、復讐の手が伸びました」
勇者とは名ばかりの厳しい辺境の地での任務に追いやられ、人々から徐々に忘れられていったアルバート・グレイアムに異国の民と通じたという罪を着せて、彼からすべてを奪ったエイダスは、しかし、彼を殺しはしなかった。
「死など生ぬるい」
スィラは、淡々と語った。
「そう思えるような屈辱をエイダスは、勇者アルバート・グレイアムに与えることを望んだのです」
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