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第153話
14ー10 歴史は、夜に作られる。
ワチさん。
俺は、涙ぐんでいた。
赤ん坊を連れての慣れない1人旅。
はやくエイダスのもとに赤ん坊を渡してしまえば、家族も安泰だし、自分も苦労せずにすむ。
なのに、彼女は、そうはしなかった。
家族のために、俺のもとから赤ん坊を連れ出したものの、エイダスのもとに引き渡すのは赤ん坊にとって危険すぎる。
だから、彼女は、姿を消した。
家族と赤ん坊、両方を守るために。
メイドとはいえ、世間知らずのお嬢様育ちのワチさんにとっては、苦しい旅だったはずだ。
「しかし、いい人に巡りあえてよかった」
俺が言うと、スマホ女神は、頷いた。
「ほんとに。こんな物騒な世の中で、悪い連中にも捕えられることなく、よく無事で」
お前が言うのか?
俺は、心の中で毒づいた。
俺を奴隷商に売り飛ばしたお前が?
「なにわともあれ、2人は、その老嬢によって、保護されて無事に暮らしていたところをアルバート殿に発見されました」
スマホ女神は、感極まったようにうっすらと涙ぐんでいた。
「この広い世界において、アルバート殿は、たった1人で、あなたの赤ん坊のことを探しだしたのです。これは、称賛に値します」
アルバートおじさんは、俺の魔力をまだ纏っている赤ん坊のことを魔力探知能力を駆使して探しだしたのだ。
さすが、元勇者だな。
ほんとに。
俺は、頬を濡らす涙をごしごしと手の甲で拭った。
ありがとう、おじさん。
「赤ん坊は、すでに領地へと連れ戻されています。もちろん、ワチさんも一緒です」
スマホ女神が、にっこりと微笑んだ。
「これで心置きなくエイダスとの初夜を迎えられますね、セツさん」
スマホ女神が、にんまりと悪い笑顔を浮かべる。
「今夜は、思うままに暴れてくださいね、セツさん」
「ああ?」
俺は、羞恥心から頬が熱くなった。
こいつ、他人事だと思って勝手なこと言いやがって!
「仕方ないでしょ、セツさんが、もう1度、最初からやり直すことを拒否されたのですから」
「だから!」
俺は、シャウトした。
「エイダスと寝るんじゃないか!」
心の底から嫌だけどな!
だが。
スキル『ビッチ』を発動して、エイダスに止めをさすためにはどうしても一度は、奴と肌をあわさなくてはならない。
まったく。
俺の叫びは、続く。
「そんな変なスキルの設定にするんじゃねぇよ!」
文句を言ってもしょうがない。
このスキルは、女神の趣味で作られたものだからな。
俺は、もう諦めていた。
俺は、今夜、エイダスに抱かれる。
そして。
奴と戦うことになる。
戦場は、このベッドの上だ。
誰かが、世界の歴史は、閨で作られるとか言っていたが、マジでその通りだった。
今夜、エイダスを制することができなければ、俺だけじゃなく世界も滅ぶのかもしれない。
マジで重いな。
だが、腹黒宰相と戦いには、ふさわしいのかもしれない。
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