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第160話
15ー6 桜花祭
俺がこの世界に来て2度目の春が来た頃。
トリムナードの中心であるトリムの町では春のお祭りである桜花祭が開催されていた。
これは、俺がみんなの日頃のがんばりに報いるために制定した祝祭だった。
俺は、半年以上前からこの日のために植物改良アプリ『パスカルくん』で作られた桜によく似た樹木をトリムナードの全領土に植樹して広めていった。
今、それが満開に花開き、トリムナードは、花盛りだった。
荒野やら、森やらが多いトリムナードだったから、せめて春を鮮やかに彩り、楽しもうという思いで始めたことだったが、気がつくと、これはトリムナードをあげての一大イベントになっていた。
周辺の魔王領からは、使者が訪れていたし、多くの観光客で町は、賑わっていた。
俺は、賑わいを楽しんでいる人々の姿を町の中央にある大きな広場に面した新しい領主の屋敷で見守っていた。
「盛況でなによりだな、セツ」
屋敷のバルコニーに立って広場を見下ろしている俺の背後からエイダスが声をかけてきた。
「みな、祭りを楽しんでいるようだな
」
「エイダス」
俺は、エイダスに微笑みかけた。
エイダスは、ノイスジーラ王国を混乱させた罪を償うために宰相の職を辞した。
そして、人知れず姿を消そうとしていた彼を俺は、スカウトしてトリムナードの領主補佐として迎えることにした。
当然、みな反対したが、俺は、それを押し通した。
エイダスは、今ではこのトリムナードに必要不可欠な人物となっていた。
「エイダスも、楽しんでくれよ」
俺が言うと、エイダスは、俺に微笑み返した。
「ああ]
エイダスの暖かな笑みに、俺は、心が安らぐのを覚えていた。
「もちろんだ、セツ」
そのとき、執務室のドアが開いて幼子を抱いたワチさんとその妹であるメアリーが現れた。
「セツ様にロバート様が贈り物があるそうですよ」
「ロブが?」
俺は、ワチさんに抱かれて俺を見上げているかわいらしい黒髪に澄んだ青い瞳をしているその幼子に手を伸ばした。
「だぁだ!」
ロブは、ワチさんの腕の中から俺に向かって手を差し出している。
ロブは、今がかわいい盛りだ。
ふと見るとエイダスも口許をほころばしていた。
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