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第162話

 15ー8 土偶女神ですか?  ロイがそっと俺に寄り添うと囁いた。  「そういえば、メサイアがもうすぐパレードを始めるとか。お前を見かけたら伝えてくれって言っていた」  「マジで?」  この桜花祭のメインイベントともいえるパレードは、クダギツネが中心となって考えた女神フローディアを称えるためのイベントだった。  なんでも、女神フローディアをかたどった人形を中央にしてトリムの町のメインストリートを行進するのだという。  「ああっ!パレードが始まるみたいですよ!」  メアリーがうずうずしてバルコニーから外を覗き込んだ。  メアリーは、あの事件後、姉であるワチさんとともにロブの養育係を勤めてくれていた。  俺たちは、バルコニーに並んで通りを見下ろした。  パレードの通過する広場へと通じる道は、このトリムの町のメインストリートだ。  かつて、この町に初めて訪れた時は、閑散としていてさみしい通りだったが、今では、いくつもの商店が立ち並んで賑わっている。  通りや、広場にいる人々の誰もが、楽しげに笑っていた。  ここには、今では、貧しくて悲嘆にくれていたかつての町の姿はなかった。  滞納していた税も支払えるようになったしな。  というか、儲けまででてるぐらいに領地は潤いだしていた。  歓声があがり、通りの向こうからパレードがやってくるのが見えた。  楽しげな楽の音にのって、桜花の花びらが舞う。  うん。  俺は、吹き出しそうになるのを堪えていた。  あれは、土偶だよね?  遠くからもよく見えている巨大な女神の人形は、なんだか妙にふくよかで。  俺は、土偶を思い出して笑いを堪えていた。  「訂正を要求します!私は、あんなに太ってませんよ!セツさん!」  耳元で抗議の声をあげているフローディアの声がして、俺は、吹き出してしまった。  メサイアいわく、ふくよかさは女神の慈悲深さとか、恵みのあらわれなんだそうだ。  「さあ、みんな、楽しんでいってやぁっ!」  人形の足元に派手な衣装に身を包んだメサイアがいて、桜花の花びらを振り撒いていた。  「祭りや、祭りやでぇ!楽しまな、損や!」    

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