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第5話 シゲさん3
「シゲが今のところ李仁くんや湊音くん以外にもオーダーを承ってたけど片手で数えられる程度だったからシゲの死を聞いた仲間たちが受け持ってくれるそうだ」
森巣がそう答えた。昔から一気に多くの数を受け入れないと決めていたシゲさんであったがここ数年もさらに減らしていたそうだ。
「……そうだ、帰りに渡そうと思ったのだが実は2人のは出来上がっていたんだよ」
「えっ」
2人は驚いた。森巣がカウンターの近くにあるコート掛けを指さした。ずっと掛けてあったのは2人のオーダーしていたスーツだったのだ。
さっきも掛かっていたが2人は気づかなかった。李仁は立ち上がり、湊音ともにスーツカバーを開けるとオーダーしていたスーツが出来上がっていた。
「……あとは細かな調整だけだったろうな。その辺はまた仲間の方から名刺もらっているからそこに持っていくといいよ。他の一部のお客さんからも問い合わせ来てるし、これから連絡をしていくからシゲのお客さんたちも……悲しむだろうな。僕たちもシゲに喫茶の服作ってもらったし、美帆子さんも……美守くんも……なぁ……シゲ……なんで死んじまうんだっ」
森巣が泣き崩れる。そこに娘のハナが赤ん坊を抱えながら森巣の背中をさする。
李仁もスーツを前に涙した。声を上げて。李仁は昨年末に書店を退職し、湊音とともに市の施設で子ども食堂を運営するのだ。
新たな門出にとスーツを2人はシゲさんに頼んだ。
こと細やかに採寸をして生地もいいものを見立ててくれて長年2人の体を見てスーツを仕立ててきたシゲさんの最後のスーツだ。
「シゲさん……」
湊音も泣いた。全てを思い出す。シゲさんとの出来事を。一緒にワインを飲んだことも。李仁の過去の話を恥ずかしながらも語る彼の話、そしていつしかシゲさんには
『李仁のこと、よろしくな』
と言われたこともあった。時に李仁の元カレであるシゲさんに嫉妬をしたことがあった。だが大人なシゲさんは過去をひけらかすことをせず湊音と李仁の関係がうまくいくよう見守ってくれていた。
その後シゲさんの元妻と娘2人から連絡があり、近くの葬儀場に運ばれたと。
そして寝てるかのようなシゲさんと面会した家族と李仁と湊音たちはさらに悲しみに暮れた。
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