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第3話

 本来なら雪も今頃友人たちとのクリスマスパーティ会場へ到着していたはずが、なんの因果か冷凍庫の中なのだから嫌味くらい許されるべき。  メッセージを閉じる前、その下にあった名前に胸が軋むのは無視した。  ああ、めちゃくちゃに楽しいことをしたい。早く行こう。  胸の軋みがそのまま脳へ到達するのを感じて、乱暴に頭を掻きむしり、透明なガラス扉を上目遣いに()めつけた。  直は相変わらず表情は変わらないまま、わずかに瞳を揺らす。それも腹が立つ。 「ナオ、言わんなわからんって言ってるやろ? 俺相手にする時いっつも手ぇ抜くなよ。あんまわけわからんことばっかしてもな、毎度お前に気ィつこてられへんねん」 「……ここにおったら、溶けへんねんて。ずっとおったら、ええやん」 「だからッ、……おられへん言うてるやん。行くとこあんの。開けて」 「ユキ、アホちゃう」 「~~っええかげんにせえよ!?」  ドンッ! と冷凍庫の壁を蹴り、篭った怒声を響かせた。  直がしまったとばかりに血の気を失せさせて怯えたのはわかったが、一度切れたなにかはすぐに元通りにはならない。 「溶けへんくっても寒いねんッ! こんなとこ一人でおる俺をお前はそっから見てておもろいんか!? なあ! おもろいんやったらいっそ溶かせよッ! 凍えきってんのより溶けきったほうが楽やわッ!」 「……っ……」 「っ、はよ、開けろ」  おそるおそる伸びてきた手が、カラリと扉を開いた。  矢継ぎ早に吐き出した言葉は、全て八つ当たりの凶器だった。  どれも直に言いたい言葉ではないのに、それらしく見せて投げつけてしまった自分を後悔が襲う。  ──しまった。こんなことを言うつもりはなかったのに。  突然声を荒げられて驚いていた直は、きっと迷惑に思っただろう。いつもはここまですぐに怒ったりしないから、余計に。 「……は……」  冷たい息をゆっくりと吐き出して、またゆっくりと吸い込んだ。  ガタゴトと音をたてて立ち上がる。  冷凍庫から出ようとする雪に直は手を差し出したが、バツが悪くて無視した。 「……ちょい、言いすぎたわ。でも別に、こんなとこに閉じ込めるようなもんちゃう。俺なん、普通や。胸元切り裂いて中身見せたろか? なんもおもんない全然普通のあったかい中身やわ。いっつもクリスマス前にフラれる、ただのしょーもない男やで」 「……ごめん」 「もうええよ。……ほなな。ナオはパーティ好きちゃうやろ? あったかいとこおりや。お留守番や」  つい自分より背の高い直の頭をなでようとして、直前で止まり、すぐに手を引っ込めながら笑う。  クリスマスパーティに連れて行ってあげようと昔から誘うが、来た試しがない。  わかりきっているのでそう言って、雪は背を向ける。 「ユキ」 「ん?」 「……いってらっしゃい」 「ん。いってきます」  倉庫のドアノブに手をかけたところで呼びかけられ、振り向いてにこやかに手を振ってやった。  口数の少ない直が拙く手を振り返すのがどこか寂しげに見えて、やっぱり言いすぎたと余裕のない心を憎らしく思い反省する。  なにか言いたげだったけれど、それがなにかわからない。  バタン、とドアを閉めてからも、雪は歩きながらしばらくは、直のことを考えた。

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