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第5話
◇
「クーリスマッスが今年もやぁってこなぁい~!」
「中止! 中止! 今年はなぁし!」
「リア充爆破せよ~っ!」
「「「ウェーイっ!」」」
ビールの缶を高らかにあげる独り身男が三人、完全に出来上がった聖夜の祭り。
冷凍ピザや出来合いの惣菜に菓子類とつまみを囲んで、缶ビールを飲み散らかす恒例のクリスマスパーティである。
雪はあたたかい物は冷まさなければ食べれないのだが、毎年ご馳走を用意する。
今年もクリスマスを共に過ごしてくれる恋人ができなかった三人は、お互いを慰めるべくこうしてドンチャンと集まるのだ。
そのドンチャン騒ぎも数時間経てば収束へ向かい、頬を染めた酔っ払いたちが空の缶に囲まれてうとうとし始める。
「来年こそは彼女作ったるからなぁ~」
友人の一人である三井 がカーペットの上に横になりながら呟くのを、もう一人の友人である徳富 と雪が、揃ってケタケタと笑った。
「みっちゃんはデリカシーないから無理や」
「言うてとっくんはロリコンやから無理や」
「ほんだら俺がいっちゃん可能性あるやん?」
「ユキちは童貞やから無理やわぁ」
「ヘタレでバカで短気やしな」
「怒りの炎で溶けそう」
「おーおー溶けろ溶けろ」
いつの間にやら矛先がこちらに向いていて、酒のせいで頭がフワフワとしている雪は大した反論もできず、ぐでりとソファーに上体を預ける。
徳富がつつくピザの隣には蹂躙されたホールケーキがあり、その経緯は切り分けもされずに各々が雑にそぎ取ったからだ。
今日はクリスマスイブ。
それと同時に──雪の誕生日でもあったのだ。一人でいたくないのはそのせいでもあった。
冬で、クリスマスイブで、バースデーな今日という日は、センチメンタルな気分から逃れられない。
……その上、直にも八つ当たりをして逃げてきてしまった。
雪は、口下手で変わり者の直が、優しい男だと知っている。
直がいつも雪たちのパーティに参加しないのは、無口で空気を壊しがちな自分が行くと、その場の人たちが迷惑に思う可能性をわかっているのだ。
雪も雪の友人二人も気にしないけれど、直はその可能性を押してまで参加したいわけじゃないだけ。
一歩譲るくらい構わない。
そういう優しさ。
『……いってらっしゃい』
けれどぼんやりと思い出すのは、最後に見た直の姿。
──あのいってらっしゃいは、構った気がする。
直の言いたいことはいつもなんとなくわかるのに、こればっかりはわからない。
おいてけぼりにした彼を思うと、雪の胸はズキンと痛んだ。
「……ん……?」
ふと外を見ると、雪 が降り出していた。
雪が溶けないように室温は普通より低めの一定を保たれているが、この様子だと冷え込むかもしれない。
となれば、流石に室温をあげなければ。こたつにも入れない雪がいると、友人たちが肌寒い思いをするだろう。
惚けた頭でどうにかそう考えた雪は、モソリと立ち上がって、帰り支度を始める。
二人は寒い日でも雪を追い出したことはないけれど、いつも自分から早めに帰るのだ。
「あれぇ、かえんの?」
「そー。雪降ってきてんで、帰れんようなる前になぁ」
「泊まったらええやん。みっちゃん泊まるやろ?」
「もち。ユキちも泊まれよー寂しいやんけぇー」
「ふはは、やっぱみっちゃん俺んこと好きすぎやわ~」
へらへらと笑いながら薄い上着を着て、シャツにジャケットだけの傍から見れば寒々しい格好で、ボディバックを背にする。
このボディバックはお気に入りのもので、バイト学生からすればなかなかのお値段だ。
雪 で濡れなければいいけれど、と気温の低下をものともしない自分よりバックの心配をする。
しかしそんな雪のジーンズの裾を、寝そべっていた三井が軽く引いた。
「せやでぇ。好きや、ライクやけど」
「やぁめぇって、酔っ払い~」
「あぁん? 俺かて好きや~ライクやけど」
「うおっ!」
ドシンッ、と床に尻餅をつく。
泥酔してこたつに潜り込んでいたはずの徳富が、三井と同じくにじり寄ってジーンズの裾を引いたからだ。
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