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第6話
軽い力だが両足にそうされると、上背があるだけで屈強ではない青瓢箪は、あっさりと倒れて間抜けな声を上げてしまった。
しまった。筋トレをもっとマメにしておけばよかった。
少々的外れなことを考えてしまうあたり、雪も同じくらい酔っていたのだろう。
なかなかに引き締まった小尻だと自負する尻が、鈍痛を発している。
それでも足元でごねるのをやめない友人二人に、雪は困り果てて眉を下げた。
そんな雪を見つめる据わった双眸が二つ。
「ユキち、なぁんか今日元気あらへんよなぁ」
「え? 全然やで、めっちゃ元気や。お祝いうれしいしなぁ。ありがとうやで」
「しょげとる。隠しようないくらいしょげとる。めずい」
「ほらみっちゃんも言ーてるやん」
「なんでよー」
ベタァ、と床に張り付く酔っ払い二人に異変を指摘され、どうしていいかわからないで笑って誤魔化す。
図星を突かれたのは初めてだ。
バレるくらいには、今日はいろいろなことがかさなってベコベコになっていたのかもしれない。
「酔ってるから目ぇおかしなってんちゃう? ほなな。もぉ帰るから、ちゃんとこたつ切ってからねーよー? 風邪引いてもしらんで」
冗談めかしてアハハ! と笑い、よろめきながら立ち上がる。
モヤりと雪の周りだけの空気が気まずくて、自己嫌悪が増し、逃げるように玄関で靴を履く。
落ち込んでいることを人に知られるのは、恥ずかしい。
それも自分の誕生日を祝ってくれた友人へ、世間が幸せで浮かれているイブになんて、不謹慎だ。
ガチャ、とドアを開くと、外の冷たい空気がアルコールで火照った頬をなでた。雪にとってはその冷たさが心地いい。
「元気出せよー! ばいばいユキちー! 好きやでー」
「俺もやぁー! 大好きやから元気出せぇ、またなー!」
「っ」
バタン、とドアが閉まる寸前に聞こえた二つの声に、心臓がドク、と大きく鼓動した。
身動きができず、目を見開いたままドアを背に立ち尽くす。
これまで、奇特な体質を好奇の目で見る人はたくさんいたし、幼い頃は冷えるからと廊下に席が移されたものだ。
夏は外へあまり出られず、冬は外へ追いやられる。壁をへだてた向こう側。
それでもかまわなかった。
雪は人が好きだったから。
そうなったのは、いつからだろう。
明るく笑ってあたたかく見えるように振る舞い始めたのは、いつからだろう。
人が好きだからこそ、誰もいなくなるのが怖くて誰でも好きになるようになったのは、いつからだろう。
好奇心で近づいては離れていく人たち。
まるで物珍しい展示品のように、へぇ、と見つめて触れずに去っていく。
あの二人とて、そんな始まりの友人だったのだ。
ただ──冬の雪は冷たいから触るなと笑うくせに、冗談を言い合える程度の距離を保ってそばにいてくれた、大勢の中のたった二人なだけで。
「……今言わんといて、死んでしまうわ」
冬になったら霜が付く雪の心は、友情だって立派な愛情であることに気がつき、コトンと解けてしばしうずくまった。
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