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第17話
参拝が終わった後はまた人の波に乗って幾分動きやすいところまで移動し、今度はおみくじを購入する。
全神経を集中して引いたおみくじを開いた雪は、白目をむいてワナワナと震えた。
「なんで凶やねん……ッ!」
「ん、大吉」
「俺五百円玉入れたやん……ッ!?」
五円玉を投げていた直がサックリ大吉。
百倍を投資した自分が凶。
雪はガックリと項垂れ、この世の不平等を嘆き絶望した。
幸運は金では買えないらしい。
ある意味平等な神様で安心した。絶望もしているが。
そうして負のオーラをまき散らしていると、隣でそれを見ていた無表情の直が、突然バックパックを漁りボールペンを取り出した。
直は近くの柵を下敷きにして、自分のおみくじの大吉を二重線で消す。
そしてその上に、〝凶〟と書き加え、無表情ながら満足げにコックリと頷く。
「よし」
「なにがよしやねん」
「だって、ユキは凶やから」
「だってもヘチマもあらへんわ!」
「ぐふ」
ドスッ! と直の脇腹を人差し指で突き、雪はこのドアホをどう料理してくれようかと目端を吊り上げた。
なぜ叱られたのがわからないと言わんばかりに首を傾げる直だが、どう考えてもおかしいのは直だ。
どこの世界に大吉を凶に修正する人間がいるのだろう。せっかくの運気が下がったらことじゃないか。
しかし直は雪の怒りポイントがピンとこないらしい。
ドスッ! ドスッ! とされるがままに脇腹を攻撃され「ユキ、怒らんといて」と訴える。
怒っていない。なぜ馬鹿なことをしたんだと聞いているのだ。
でなきゃ直を理解してやれないし、場合によっては殴れない。
拳ならどこかの誰かが捨て身で温めたのでいつでもゲンコツをお見舞いできるぞ。
「痛いユキ……ユキが凶やから、俺も凶やねんて」
「あぁ?」
「顔怖いユキ……」
「コラっ」
言いながら、直は雪の手から本物の凶のおみくじを拝借した。
驚き直を見ると、無表情だが心なしかしょげる直。
「ユキが落ち込むん、俺的には凶やから」
「っ、う……」
だから。だってもヘチマもないのだと、言っているじゃないか。
そうは思ってもキューンと眉を下げておみくじ二枚を握り締める直を前にすると、うまく叱れず、雪は口元をモゴモゴと疼かせた。
「お前それ、わざとやったらしばくからな……ッ」
「怒らんといて」
「怒っとらん。怒るだけ無駄や。さっさと結んでさっさと帰るッ」
「ユ、ユキ……」
ジワ、と赤い頬が溶けかける。
外でよかった。
溶けた頬がすぐに冷えるので、照れているのがバレずに済んだ。
(ナオが俺基準なとこは昔っからやのに、俺のこと好きやってわかって聞くと、なんか、ズドンってきよる……!)
「口数増えとるしィ……ッ」
「ユキ、ユキ」
「お前その図体でなんで人ごみに流されんねん!」
頭を抱えて振り向き、雪について行けない直を迎えに戻る。
長身の雪より更に大きく目立つ直を連れて、おみくじ掛けにおみくじを結ぶ頃には、どうにか雪の胸の鼓動も落ち着いたのであった。
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