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第24話
雪を想い続けて歴代の恋人たちに妬いていた直は、雪の喜ぶ雪に相応しい恋人を自分の中で決めつけていたと言う。
だから雪が自分に意見を求める理由も怒った理由も、よくわからなかった。
だけど本来、それを決めるのは雪だ。
真っ先に謝罪し、宣言し、泣くことも縋ることもなく背を向けた雪の漏らした本音を聞いて、直はズドンと脳を抉られた気がした。
雪がいつもクリスマス前にフラれて苦しんでいたのは、自分が一人だと思い込んでいたからじゃない。
好きな人とさよならをしたから、苦しんでいたのだ。
なぜなら直は知っている。拒絶なら、雪は昔からずいぶん慣れっこだと。
冬は溶けるので暖房を入れられないと教室の外へ追いやられ、二人三脚も組み体操も見学。
登下校班の時ですら、上級生は雪と手を繋ぐことを躊躇した。
それらがトラウマにならず、クリスマス前にフラれることだけがこびり付いていたのは、好きな人から手を離される記憶だから。
好きな人に毎度さよならを言われる自分は、友人にも、幼なじみにも、いつか愛されなくなるのだろう。
必然に包まれたネガティブな思い込みは、クリスマス・イブ、友人と直が破壊した。
そしてあの時の雪がようやく声を上げて泣き出したから、直は余計に〝雪は一人が嫌だったんだ〟と凝り固まった。
しかし、違う。
好きな人じゃなきゃ、意味がない。
意味がないのに──……雪は、好きじゃないから直とは付き合わないのではなく、好きになれるようにと、向き合ったのだ。
もちろん直はそれが寂しがり屋の雪のキープだと思っていた。
イブの会話はそうだと受け取ったし、一般的にもそうだろう。
けれどよく考えてみると、雪はそうだと受け取っていない気がする。
『お前なぁ、俺とノリ合わせんでええねん。二人でも普通に楽しいやん』
直は直のままでいろと。
その言葉を正しく理解できないまま、あの時の直の頬はずいぶん熱くなった。
なぜそう言うのだろう?
今は恋人試用期間なのに?
好きでいてもらえるように頑張るのは直の仕事で、雪は俺を好きにさせてみろと構えるのが正しい。
『俺は、真冬に一緒に過ごしてくれるクリスマス前に別れへん恋人が欲しいんやなくて……好きな人 と、ずっと一緒にいたいんや』
そんな疑問が去り際のセリフと交わって、固まった脳が抉られ、それで、だから、つまり、それは。
雪は、直に変化を求めない。
直と一緒にいたいから、直を好きになりたい自分が変わろうとしていたのだ。
「それを全部わかって、俺……自分やったらどうしようもないくらい、またユキのこと好きになってしもた……」
離れていた間に膝を抱えて考えていたことを話し終えて、直は情けない表情で上目遣いに雪を見た。
雪には同意できない気持ちだ。
直が言うほど、自分は綺麗な人間じゃない。
要するに、自分のために困る直の上に乗って、直との距離をさぐっていた。
自分のために頑張るのはごく普通のことなのだが、直は「俺のミス、簡単に許したくせに……?」とへちゃむくれる。
へちゃむくれながら腰をスリスリと親指で擦られ、雪は心臓がビクッと疼く。
「い、いや、ミスちゃうやろ。言うてないことわからへんわ」
「わからへんだら、聞かなあかん……ユキ、言うたやろ? 大事なことは口に出さんな、伝わらへん……俺、嘘言うたわ」
「あ? 嘘?」
嘘と言われて直を見つめると、直はポス、と顎を雪の胸に置き、雪を見上げた。
澄んだ薄茶の瞳と目が合う。
「ほんまは俺、恋人かどうかとか……もうどうでもええねん」
「はっ……?」
怒る? と不安がって揺れる直の瞳の中で、雪は驚いた。
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