23 / 30

第23話

「体、もっと寄せてええ?」 「……ええよ」 「膝に乗るわ」 「来て……」 「重ない?」 「背ぇ高い割に、ユキは軽い」 「今年は筋トレしますぅ」  胡座をかいた直の上に乗り上げ、体は密着させずに尻だけを預けた。  次から次へと、雪には直に試したいことがたくさんあった。  もちろん素肌に触れられるのは不安と恐怖があり、直も冷たいだろうからなしだ。  それ以外のことで距離感を確かめられるものを、積極的にいくつも試して、雪は直に知ってほしい。 「髪にキス、する」 「……じっと、しとるよ」  頬ずりしていた直の髪にチュ、と唇を当ててがてら、鼻先をうずめてスンスンと匂いを嗅いだ。  いい匂いがする。シャンプーと、直の体臭の匂いだ。匂いが気に入る相手は、確か相性がいいのだったか。 「ナオの匂い、好きやわ」  瞼を閉じてしばし感じていると、直が腕の中で身動ぎ「ユキ、もー離して」と懇願の声を上げた。  服の上からでも溶けそうなくらい熱い直だが、そろそろ本気で寒くなったのだろう。  抱いていた頭を解放すると、直はクゥンと困惑を滲ませて眉を下げる。  解放されてホッとしているかと思ったが、困っているようだ。 「どしたん? ナオ」 「ユキ……なんでこんなんするん……? こんなんしたら、手ぇ出したなるやろ……?」 「は? あ、あぁ。おう、うん。いや、俺もビビってやんと自分からナオに触って、大丈夫な距離感掴もうと思ったんや」 「そら男前やけど、ムラムラする……もうちょっと勃っとんで」  セックスは待ってくれと言った雪のために我慢しているのだ、とでも言いたげな直の言葉に、雪はなにも言えずにチョビと溶けた。  触られるのが嫌なのかと思ったのに、どうやら真逆だったらしい。 「俺は勃っとらん」 「勃ててよ……」 「無茶言うな。って思たけど、まぁ恋人チャレンジで、ちょ、ちょっと頑張る」  物欲しそうな直のオネダリにツッコミをいれたい雪だが、それではいつも通りなのでとりあえず直の裸体を想像する。  結構良い体だ。  寒そうだから服を着ろ。  そんな感想しか出なかった。  恋心とは別にそこは好きかどうかより勃つかどうかなので、参考には向かない。  雪が胸の前で大きくバッテンを作ると、直はシュンとしょげて「ほなもう俺の上から降りてぇよ」と恨みがましそうな様子で雪を見つめた。  降りたらただの幼なじみじゃないか。  雪道でした意見交換が無駄になる。  ヘタレな雪が自分から直に触ることで〝無理に頑張っているんじゃなくて、やりたくて直に歩み寄っているんだ〟と伝えている。  ここで引いたら意味がない。  そう言うと、直は雪の腰を両手で掴み、緩く反応を見せるモノを布越しにグリ、と押し付けた。 「ッ……」 「言うとくけど、俺……いっつもユキで抜いてんねん……ユキの感じる顔見たいし、声聞きたいし、ドロドロに……犯したいわ」  軽く腰を持ち上げられ、トン、と股座に落とされる。  品のない仕草だが、無欲な恋心と別物の劣情をわかりやすく表現された。  直はこうして雪を突きたい。  表面よりは温かいが死体のような生ぬるい肉の中に、入りたい。 「ナ、ナオ」 「ユキがもうええって怒ってどっか行った時……怒った態度やけど、ほんまはめっちゃショック受けてたんわかって……言い残した声で、俺のミスに気づいたんや」 「ミス?」 「うん……俺やったら、俺やったらって、勝手に俺が〝申し分ない恋人〟を決めとった……」  ──尽くされているから、一等好かれているから、聞き分けがいいから。  こんなに愛されているのだから、拒否する理由はないだろう?  そう思い込んでいたのだと言って、直は胸の内を少しずつ語り始めた。

ともだちにシェアしよう!