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第23話
「体、もっと寄せてええ?」
「……ええよ」
「膝に乗るわ」
「来て……」
「重ない?」
「背ぇ高い割に、ユキは軽い」
「今年は筋トレしますぅ」
胡座をかいた直の上に乗り上げ、体は密着させずに尻だけを預けた。
次から次へと、雪には直に試したいことがたくさんあった。
もちろん素肌に触れられるのは不安と恐怖があり、直も冷たいだろうからなしだ。
それ以外のことで距離感を確かめられるものを、積極的にいくつも試して、雪は直に知ってほしい。
「髪にキス、する」
「……じっと、しとるよ」
頬ずりしていた直の髪にチュ、と唇を当ててがてら、鼻先をうずめてスンスンと匂いを嗅いだ。
いい匂いがする。シャンプーと、直の体臭の匂いだ。匂いが気に入る相手は、確か相性がいいのだったか。
「ナオの匂い、好きやわ」
瞼を閉じてしばし感じていると、直が腕の中で身動ぎ「ユキ、もー離して」と懇願の声を上げた。
服の上からでも溶けそうなくらい熱い直だが、そろそろ本気で寒くなったのだろう。
抱いていた頭を解放すると、直はクゥンと困惑を滲ませて眉を下げる。
解放されてホッとしているかと思ったが、困っているようだ。
「どしたん? ナオ」
「ユキ……なんでこんなんするん……? こんなんしたら、手ぇ出したなるやろ……?」
「は? あ、あぁ。おう、うん。いや、俺もビビってやんと自分からナオに触って、大丈夫な距離感掴もうと思ったんや」
「そら男前やけど、ムラムラする……もうちょっと勃っとんで」
セックスは待ってくれと言った雪のために我慢しているのだ、とでも言いたげな直の言葉に、雪はなにも言えずにチョビと溶けた。
触られるのが嫌なのかと思ったのに、どうやら真逆だったらしい。
「俺は勃っとらん」
「勃ててよ……」
「無茶言うな。って思たけど、まぁ恋人チャレンジで、ちょ、ちょっと頑張る」
物欲しそうな直のオネダリにツッコミをいれたい雪だが、それではいつも通りなのでとりあえず直の裸体を想像する。
結構良い体だ。
寒そうだから服を着ろ。
そんな感想しか出なかった。
恋心とは別にそこは好きかどうかより勃つかどうかなので、参考には向かない。
雪が胸の前で大きくバッテンを作ると、直はシュンとしょげて「ほなもう俺の上から降りてぇよ」と恨みがましそうな様子で雪を見つめた。
降りたらただの幼なじみじゃないか。
雪道でした意見交換が無駄になる。
ヘタレな雪が自分から直に触ることで〝無理に頑張っているんじゃなくて、やりたくて直に歩み寄っているんだ〟と伝えている。
ここで引いたら意味がない。
そう言うと、直は雪の腰を両手で掴み、緩く反応を見せるモノを布越しにグリ、と押し付けた。
「ッ……」
「言うとくけど、俺……いっつもユキで抜いてんねん……ユキの感じる顔見たいし、声聞きたいし、ドロドロに……犯したいわ」
軽く腰を持ち上げられ、トン、と股座に落とされる。
品のない仕草だが、無欲な恋心と別物の劣情をわかりやすく表現された。
直はこうして雪を突きたい。
表面よりは温かいが死体のような生ぬるい肉の中に、入りたい。
「ナ、ナオ」
「ユキがもうええって怒ってどっか行った時……怒った態度やけど、ほんまはめっちゃショック受けてたんわかって……言い残した声で、俺のミスに気づいたんや」
「ミス?」
「うん……俺やったら、俺やったらって、勝手に俺が〝申し分ない恋人〟を決めとった……」
──尽くされているから、一等好かれているから、聞き分けがいいから。
こんなに愛されているのだから、拒否する理由はないだろう?
そう思い込んでいたのだと言って、直は胸の内を少しずつ語り始めた。
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