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第22話
それから三井と徳富と別れ、雪と直は雪の部屋で午後を過ごすことにした。
雪の両親と直の両親は、二組仲良く町内の新春餅つき大会に出ていて留守だ。
世話好きで明るく夫婦揃って常にワハハと笑っている直の両親と、夫婦揃って呑気な変わり者で少しマヌケな雪の両親は、かなーり仲がいい。
家が近所で両親が仲良しだから子どもも仲良し、とは限らないだろう。
そう思っている雪は、特に意識して直と幼なじみをし続けていたわけではないが、結果的には長い付き合いだ。
まぁ、育ちやなんやと考えていくと、そうなるのが自然な気もする。
呑気な両親を叱り飛ばす雪が行動的な世話焼きで、快活な両親に変人行動を許されてきた直が大人しい甘えんぼう。
昔からである。
途中で離れなかったのは、お互いが一緒にいようと無意識にしていたおかげ。
単純に、雪が直を放っておけない子どもで、直が雪の言うことだけはよく聞く子どもだったからだろう。
(嫌なとこもええとこも、全部知り尽くしとる。……のに、ナオが俺のこと好きなんは、知らんかったんやな)
薄い上着をクローゼットにしまいエアコンをつけながら、雪は自分たちの関係を見直す。
恋愛相手として見る努力をしていても、直に恋をしているのかはまだわからない。
わからないが、離れたくない。
大事な人には違いなく、触れて触れられて、それがちっとも嫌じゃない相手。
雪にとって、直は特別だった。
特別だから分類し辛い。
──やはり、ずっと一緒にいるには、お互いが心地いい距離であるべきだ。
雪はそう確信した。
幼なじみから恋人へと関係が変化した場合、その関係に見合う心地いい距離を改めて築きたいと思う。
「ナオ、こっち来ぃ」
「ん」
ボフンッ、とベッドに胡座をかいた雪は、自分の隣をポフポフと叩いて直を呼んだ。
マフラーや上着を脱いだ直は、コクリと頷いてベッドに上がり、雪の隣でのそのそと胡座をかく。警戒心の欠片もない。
雪の言葉を待つ直の瞳を前に、雪は足を崩して腰を上げ、胡座をかいた直の膝のそばに手を置いてみた。
「っ」
「あの、な。その、なんや。いろいろ試してもええか? ナオは、じっとしとって」
「じっと……?」
溶けないギリギリの温度で暖房をつけたが、直に触れて尋ねると、仄かに体が熱く感じる。
手には普段着けない手袋を着けていた。人に触れるには素手より温かいのだ。
それでも心臓がドキドキと疼くが、そこはなんとか無視しておこう。
一瞬フリーズする直がややあって頷いたので、雪は膝立ちになり、そっと直を抱きしめた。
「あ〜……うん。お前、ぬくいな」
「……じっと」
「? そう。じっとしとって」
「じっと……」
「せや。クリスマスん時はお前が俺の体触ってんから、元旦は俺がお前の体、触る」
そう言い聞かせると、動きたそうだった直は大人しくじっと抱かれる。
スキンシップ好きの直と違いスキンシップが苦手な自分は、距離が近いと緊張して心臓がうるさい。
直に鼓動を聞かれるのかと思うと離れたくなるが、グッとこらえる。
待っているだけじゃなくて、自分からも恋人らしいことを試してみようと思った。
抱きしめた直の頭にコツン、と顎を乗せ、背中をトントンとあやす。
「……拷問や……」
「う……じ、直に触らんようにしとるやろ? 俺とちゃんと付き合う気やったら寒いのぐらい多少我慢せぇ。俺は表面がいっちゃん冷たいんやから」
悪い気はしつつもそう言い聞かせると、直は「俺、我慢しとるよ」と呟いた。
「勃ちそう……」
「あ? なんや」
「なんも」
聞き取れなかった呟きを聞き返す。
けれど誤魔化され、直は腕を回すことも強ばった体の力を抜くこともなく、フゥ、と息を吐く。
直、どうして緊張しているのだろう。
もしかして嫌なのか? 自分に抱きしめられるのは、やはり冷たくて勘弁だと。
「……もうちょい、我慢して」
直のため息に心がビクついたが、雪は直の頭を離さず、スリ、と頬を擦り寄せた。
その瞬間、腕の中の直がガチンッ、と余計に硬直した気がする。
そんなに嫌がるなんて流石に酷い。
髪をクッションにしたじゃないか。そこまで冷たくないはずだ。
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