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December 4/4

 ベッドで眠れる生活は最高だ。  以前住んでいた安アパートや実家のベッドよりも広く上等な寝床は、男2人で乗っても余裕がある。  フローリングに直で寝るなんて論外。  広いくて明るくて、暖かい素晴らしい部屋。 「あ、ぁ……っ、そこ、擦れ……っ」  俺は長身の男に跨って、自ら腰を振っていた。  1年間も裸で監禁されていたわりに不慣れな俺に対し、新たな部屋の提供者であるサカキは手解きでもするように、実に丁寧な態度だった。  俺の体は素直に反応を示した。  気持ちがいいと理解した。  殴られたり首を絞められる心配もなく、ほどよく無関心な相手に脚を開くのは羞恥心もそこそこにしか機能せず、本当に何から何まで都合が良かった。 「そうそう上手。好きに動いてみな」  サカキは人相の悪さに反して、暴力的な面は一切見せなかった。  言われるがまま、体内でペニスを味わう。 「あ、ぁあ、アっ……い、ぃ……ッ」  深過ぎないところで角度をつけて抜き差しすると、先走りがだらだらと溢れた。  久々の再開からホテルに移動して、やる事をやって以降、まだ2度目だというのに、俺は早くも快感の虜になりつつあった。  サカキは元々男の経験は多いようだし、実際に上手いのかもしれない。金があってセックスも上手いとなれば、そこに依存しない事、というのは確かに容易い条件ではなさそうだ。  俺はと言えば、意外と男相手でも気持ちいいものだな、と思いはするものの、かと言ってサカキに独占欲めいたものが生まれるかと言えば、その兆しはまるでなかった。  それよりももっと、気になる存在がある。  そいつは今、不自然な体勢で床に這い蹲って、何やら魘されている。  徐々に意識が戻りつつあるらしい。  だから一層、声にした。 「ははっ……すげ、これ……気持ち、い……」  ギシギシとマットレスのスプリングを鳴らしながら、激しく腰を揺する。  走り出す事も出来なかった足腰には堪えるけれど、もう少し頑張ってみる。  だってほら……やっと起きた。 「ミ……ツル……?」  寝惚けたような声で、俺の名を呼ぶ。  それを無視して、サカキと視線を絡ませる。 「あっ、あ、ァ……もう、イきそ……、なあっ……いい……っ?」 「勿論」 「ん、ァ……ッ! あ、ぁあッ……!!」  腰を支えられて追い立てられると、自然と嬌声が漏れた。  既に熟知されてしまった弱点を的確に責められ、触れてもいないペニスから白濁が散る。 「あぁ、ぁ……は……」  ぼんやりとした頭で、俺の精液で汚されてしまったサカキを見下ろす。  ただただ気持ちがいいけれど、その姿に、どんな感情もない。 「……ミツル? これ、どういう……なんで……」  射精の余韻に浸っていると、先ほどよりは覚醒したと分かる声で再び名前を呼ばれた。  俺は更に、気分が良くなる。  声には焦りが見え、情けなく掠れていた。 「ああ、起きたかー……?」  未だ挿入したまま、応答した。  腫れた瞼でも驚愕に見開いていると分かる眼差しと、目が合った。 「な……に、して……」 「何って。俺、今度はこの人の愛人やる事にしたから」 「え……?」  薄汚れた男は状況を把握出来ずに狼狽えている。  随分と乱暴に連れて来られたのだろう。殴られた顔は腫れ、服もあちこち汚れていた。その上、手足まで拘束されている。  まあ、年が明けるまではそのままだ。当然だな。 「俺が何をしようと、もうお前には関係ないだろ?」  俺がお前に、どんな復讐をしようとも。  そう言い切ってやると、腫れて変色しているというのに、みるみる顔が青褪めていくのが分かるようだった。 「なに……を……」  未だ混乱を続ける男は、相変わらず意味をなさない言葉ばかりを発する。  状況を理解するまで悠長に待つ事は出来ず、堪え切れなかった笑い声と一緒に、告げてやった。 「鈍いな芝原。今度は俺が、お前の自由を奪ってやるって言ってんだ」 「なっ…………」  芝原は絶句した。  その表情に満足感を覚えると同時に、興奮した。 「話は済んだか? 俺はまだ出してないんだけど?」  こっちはこっちで、さして切羽詰まっている風でもなく、言葉だけでサカキは俺を急かした。これ見よがしに、腰を揺らされる。  この男も負けず劣らず悪趣味だ。  俺なんかを気に入っている時点で、かなり。 「ん、……っ、ごめん。続き……するから」  だがここは調子を合わせておこう。  思わせぶりに囁いて、ゆっくりと律動を再開する。  自分が気持ち良くなる方法も、相手を気持ち良くする方法も、クリスマスの夜に学んだ。  自称恋人が、決して分かり合おうとしなかった事を、愛人を明言した男と実演してみせる。  精々、じっくり見ているといい。  ……ああ、そうだ、肝心な事を言い忘れていた。  折角間に合わせたんだ。 「は……ぁあ、あ、っ……芝原ぁ……?」  他の男と交わりながら、数日前まで恋人だったらしい男の名を呼ぶ。 「誕生日、おめでとー……?」  さあ、めでたいこの日を祝おう。  これ以上ない記念日だろう? 「覚悟しとけ、芝原ぁ……」  歪んだ笑顔で吐き捨てて、俺は目の前の男に抱きついて、唇を重ねた。  これからが楽しみだ。  まずは1年、素晴らしい日々にしようじゃないか。

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