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第14話
「あ、そっか」
雷音は玄関のドアを開けようとして、万里の存在を思い出した。家に他人が居る事にいつまでも慣れない。
一人暮らしが長いので、これはどうしようもないことなのかもしれない。
時計を見ると大抵の人間が深い眠りについている頃だ。万里ももう寝てる頃だろうなと、雷音は自分の家のドアを不審者の様に静かに開けた。
部屋は案の定、真っ暗だ。雷音はそっと靴を脱ぐと廊下を進んだ。
どれだけ酔っていても、どれだけ部屋が真っ暗でも住み慣れた部屋を進むには何も苦労はなかった。
「くそ…飲み過ぎたな」
「あ、おかえり」
「うわ!!」
ひょいっと暗闇から人影が出てきて、雷音は思わず声を上げた。
「そないな声上げんといてくれる?傷つくやんか」
「…なに、してるんですか」
「あ?トイレ」
「…あ、そう」
言われてみれば、万里が出てきたのはトイレだ。何してるもなにも無いだろう。
雷音は嘆息すると、持っていた紙袋を万里に押し付けた。
「何これ」
「土産。神原さんから」
「神原?ああ、店に来はったん?暇人やねぇ」
雷音は万里を押し退けて廊下を進むと、リビングの簡易照明を付けた。
仄かに明るい中、コートとジャケットを脱いで冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しす。それを一気に飲み干すと、ソファで神原からの紙袋を漁る万里を見た。
「煙草、でしょ?」
「うーん、煙草はおまけやねぇ」
万里はフフッと笑ってテーブルに煙草の箱を取り出すと、その奥から封筒を引っ張り出した。
「…は?」
「宅配やねぇ。雷音は」
封筒をヒラヒラさせて、万里はウインクをしてみせる。それに雷音は舌打ちした。
「…ムカつく」
何が手に入り難い煙草だ。まるで運び屋の真似事をさせられたようで、雷音はペットボトルを握り潰した。
「今日は機嫌が悪いねぇ」
万里は封筒の中身を覗き込みながら、珍しく機嫌の悪い雷音を笑った。雷音にもこういうところがあるんだな、という笑いだ。
それが馬鹿にされたようで腹立たしくて、雷音はネクタイを外すと万里に近付いてその細い腕を掴んだ。
「ん?」
「もう、身体は何もないんだろ?」
「まぁ、せやねぇ」
「じゃあ、抱かせろよ」
雷音はそう言うと万里を乱暴に引っ張り、寝室へ向かった。万里はそれに抵抗する事も無かった。
先ほどまで寝ていたのかベッドは少し乱れていて、雷音はそこへ万里を押し倒すとその唇を塞いだ。もちろん、そんな事を万里が抵抗をする訳でもなく、反対に口を小さく開いて舌を絡めてくる余裕を見せた。
「酒、くさ」
唇を少し離すと万里はそう言って笑った。そして、雷音のシャツのボタンに手をかけた。
「何をイライラしとるんか知らんけど、サディスティックな抱き方は雷音には似合わんねぇ。俺も好かんし。どうせなら、優しゅう抱いてほしいやん?」
シャツのボタンを全て外し、身体を起こすと露になった肌に唇をつけ少しだけ強く吸い付く。小さな痛みはそこへ赤い紋章を残した。
「もっと、濃く残ると思ったんにねぇ」
残念そうに鎖骨の辺りを撫で、深く刻みこまれた腹筋まで指を踊らせる。少し伸びた爪がカリッと皮膚を傷つけた。
「…もう、いいや」
何だか何に苛々していたのか、急に全てが馬鹿馬鹿しくなって雷音は万里の上から退くとその隣に寝転がった。
神原に運び屋をさせられていた屈辱か、質の悪い客の相手をしたストレスか、何にせよそのストレスをぶつけるなんてらしくもない。
こういう勢い任せのセックスなんて後味が悪いものになって、ずっと消化不良で残るのだ。
「あら、意気消沈?早いねぇ」
万里は不満そうにして、雷音の頬に口づけると今度は反対に雷音の上に股がった。
「ええ眺めやねぇ」
「あんたなら、しょちゅう人の上に股がってそうだけど?」
「失礼やねぇ。そないなことしてへんわ」
万里はムッとしながらも、着ていたスウェットを脱いでアンダーウエアだけになると、雷音の手を取ってその指をチュッと吸った。
「一回、火ぃ付けたんやったら最後までしてもらわんとねぇ?」
寝た子を起こしたと言わんばかりに言うと、万里は淫靡に微笑んだ。
「ん…ふ、ん…」
熱い吐息を共に甘い声が漏れる。万里は必死に雷音の舌に舌を絡めながら、昂る雄を雷音の腹に押し付けていた。
対面した状態で深い口づけを交わしながら、万里はさっさとアンダーウエアを脱ぎ捨てて全裸になっている。
そして昂った雄を雷音の堅い腹筋に擦り付けていた。
野獣のように口づけを交わしていると、身体の奥に沈んだ熱がむくむくと頭を擡げるのが分かる。万里との情事は、雷音の理性を全て打ち砕く力を持っているような気がした。
弾力のある尻を揉んで、上顎をぐるっと舐めると万里のペニスから透明の蜜が漏れる。すると万里は小刻みに震えて、子猫の様に鳴いた。
「…はぁ、気持ち、ええ」
少し唇を離すと、万里がうっとりとした表情で言う。
ナイトテーブルに置かれたライトだけしか灯りはないが、はっきりと分かる。万里の左目も、傷も、真っ赤に燃える炎のように色づいている。感じている証拠だ。
「綺麗だね…」
雷音はその目蓋に口づけて、未だに身につけたままのスラックスのベルトに手をかけた。
「あ、俺がやったる」
万里はそれに気が付くと雷音の手を握って、雷音の膝の上に座っていた身体をゆっくりと移動させた。
カチャカチャと金具が当たる音が響く。万里は淫猥な笑みを浮かべながら、スラックスのチャックを歯で挟んでゆっくりと下げていく。
そして、全て下げると顔を覗かせたアンダーウエアの膨らみに舌を這わせた。
「ふふ…熱い」
どこか楽しそうに、鼻歌でも唄い出しそうな表情でその膨らみを舐める。
「シャワー、浴びてないけど」
「やから?処女の乙女やあるまいし」
万里は笑うとアンダーウエアを噛んで、ズルズルと下ろし始めた。その顔はどこか楽しげで、そしてエロチックだ。
ずるっと少し勃起したペニスに、万里は眉を上げた。
「こうして見ると、えげつ…」
「えげつないって、傷つくでしょ」
「ああ、確かにそやね。堪忍」
どこに向かって言ってるんだ。
お詫びにとばかりに万里は左目と傷同様に赤い舌を出して、ぺろっとキャンディでも舐めるかの様にして舌を這わした。
「変な感触」
「でしょうね」
「やて、嫌いやないよ」
にっこり笑って、今度は亀頭からぱくり、食らいつく様にして頬張られた。
「ちょ、噛まないでよ?」
「…そないこわい事、しはるわけあらへんやん」
同じ男だからこそ、恐ろしいと心底言える言葉だろう。
亀頭の穴に舌先を捩じ込みながら、竿の部分を緩やかに扱く。そうしながら双嚢を掌で弄ぶ。実に巧みである。
「…ねぇ。よくするの?」
「…はぁ?」
万里が口を離して雷音を見上げた。それでも手は休めないという、熟練エキスパートみたいな技をみせてくる。
「いや、よくするんだろ」
「なんを言い出すかと思うたら。こへんなこと、しはるわけあらへんやん」
「俺が初めてとか言うの?ないでしょ?」
「あんたは俺が初めてやあらへんの?」
「俺?」
「俺は、初めての日は雷音にしゃぶられて出したけど?」
万里は艶やかな唇で弧を描くと、また、雷音のペニスを口に含んだ。上顎に先端を擦り付けながら、喉奥を窄めて扱く。
じゅぶじゅぶと淫猥な音色を響かせながら、蟻の門渡りを指先で押されて腰が撥ねた。
「…っあ」
さすが同じ男。ツボは心得ているらしく、絶妙な口淫。
雷音はフッと笑って万里の髪を撫でた。
「出ちゃうよ?いいの?」
熱い息を吐きながら言うと、それはダメだと思ったのか万里は口を離した。そして、てらてらと光る唇を拭って、身体を起こす。その万里の中心では、ペニスが頭を擡げて震えていた。
「俺の、しながら感じるとか。淫乱っていうのかな?こういうの?」
「どないやろ?」
「多分、そうだと思うよ。…じゃあ、四つん這いになってくださいよ」
「は?いきなり入れられたら裂けるし、俺はマゾヒストやあらへんから、そんなんで興奮せんけど?」
「大丈夫。傷つけたりしないから」
ね?と言う雷音に渋々、万里は四つん這いの格好になった。
男のこういう姿をマジマジと見たことは皆無だ。自分でさえ、こういう姿になったことはないが、尻の形の綺麗な、そして肌の綺麗な人間は得だなと思う。
マヌケさが無い。ダランと垂れる双嚢も呼吸をするようにひくつくアナルも、性的欲求を満たす上で最高の情景だ。
「体毛、全体的に薄いですよね?」
「あー、気にしとるから言わんで」
「どうして、綺麗じゃないですか」
四つん這いで心細さから、万里が股座の向こうから不安そうな顔で雷音を見てくる。何とも、すごい光景だ。
「怖い?」
雷音は四つん這いの万里の傍で胡座をかくと、白い尻に吸い付いた。
「んんっ…」
期待からか、自分が今している格好の光景からか、万里のペニスから透明の蜜が垂れシーツにぽとり、落ちた。
女の様なただ柔らかいだけの柔らかさは無い、どちらかというと格闘で鍛えられた尻は堅い。だが、堅い場所は一定のところだけで下の方は張りがあり柔らかいのだ。
その柔らかい部分に吸い付いて、時折、軽く噛むと万里が小さく声を上げる。マゾヒストではないにしても、噛まれるのが気持ち良いなんて完全にそうでないとは言えないのではないだろうか。
「気持ち良さそうだね」
雷音は震えるペニスを双嚢の方から指を伸ばして撫でる。すでにそこは万里が垂らした蜜で滑りがよくなっていて、雁の部分に爪を立てるだけで万里は良さそうな声を上げる。
このまま少しの刺激でイケそうだなと笑いながら、雷音はナイトテーブルに手を伸ばし引き出しからワセリンと爪切りを出すと、突っ伏した万里の手を引っ張った。
「え…」
「大丈夫、身体はそのままでね」
雷音は掴んだ右手の爪を素早く切り始めた。
「え…こんな格好で爪切りとか」
足を広げた股の間から右手を通して、爪を切られる。こんな事をするために、こんな格好をさせたのかと混乱しているようだ。
「怪我するといけないからね」
雷音はそう言って爪を切り終えるとワセリンを指に掬い取り、ひくつく万里のアナルに目一杯塗りたくった。
「うわ!」
「あ、ごめんね」
ごめんと言いながら、雷音はすごく楽しそうだ。そして、ナイトテーブルから取り出したコンドームを一つ開けると、万里の指に嵌めた。
「え…」
まさかと言うが早いか雷音が万里の手をアナルに近付けたのが早いか、あっという間に万里の指は雷音によって己の体内に捩じ込まれた。
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