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3-②

「椚高の生徒か。今のアタマはどいつだ。たった二人を相手にこの大人数用意したなんて、情けねぇ」  言いながらこちらに向かってくる直人の父親に、生徒達は身構える。 「誰だてめえ」 「お前ら椚に通ってんなら、一度くらい『陣野』って名前を聞いたことあるんじゃねえか?」 「陣野って……まさか、あの」  明らかに顔色が変わった椚高の生徒を見て、直人の父親がニヤリと笑う。 「そうだ。俺があの(・・)陣野だ。あんまりみっともねぇことして椚の看板汚すなら、俺がお前らブッ潰すぞ」  低い声で凄まれて、椚高の生徒が震えあがった。陣野という人物は、彼らにとって特別な存在のようだった。そしてそれも納得してしまう程の気迫が、直人の父親から溢れている。  啓介は呆気にとられながら、視線を直人に移した。直人は赤面しながら俯いて、別の意味で震えている。  千鶴が学校に抗議の電話をすると言ったのとは次元が違う。正真正銘子供の喧嘩に乗り込んできたのだ。「そりゃ居た堪れないよね」と、啓介は不憫そうに直人を眺めた。 「おい、お前ら帰るぞ」  大人しくなった椚高の生徒を一瞥し、陣野が啓介たちに声をかける。ズンズンと大股で土手を登り、停めてあった軽トラックの荷台に啓介と直人の自転車を積み込み始めた。白い軽トラのドア部分には『陣野酒店』と大きく表記されている。  配達途中だったのかなとぼんやり考えていたら、直人に肩を掴まれた。 「啓介、顔殴られたのかよ。お前がやられるなんて珍しいな」 「あー。直人が木材で殴られそうになってたから、ちょっとね。油断しちゃった」 「え、ごめん。俺のせいか」 「違うよ」  啓介は笑いながら首を振ったが、直人は申し訳なさそうに腫れた頬に触れ、もう一度「ごめん」と小さく呟く。  啓介の鼓動が、ほんの少しだけ早まった。

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