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第3話 unexciting
高架下で青春の一ページのような喧嘩をしてから約一カ月。啓介は相も変わらず平凡で退屈な毎日を送っていた。
正確には一度、椚 高校の生徒にいつもの河川敷で待ち伏せされ、否応なしに大乱闘に巻き込まれたのだが、特に面白くもなかったのでそれはノーカンだ。
「いや、直人のおとーさんはちょっと面白かったかな」
教室の窓側の一番後ろという特等席で、啓介はこっそり思い出し笑いをする。
前回啓介に歯が立たなかった椚高の連中は、今度は節操なく頭数を増やしてきた。直人が一緒の時で良かったと思いつつ、啓介はシャツを汚さないようにしなきゃと呑気に考える。
いつも通り一人ずつ沈めていけばいいと殴り合いを始めたのだが、流石に数が多くて圧 された。一撃で仕留められず、手数が増えて体力を消耗させられる。途中から啓介は、シャツの汚れを気にする余裕を失った。
息を切らして四方から伸びる腕をかわしながら、あまり力の入らなくなった拳を何とか振り下ろす。河原から木材のようなものを拾いあげる生徒の姿が目の端に映って、「頭おかしいんじゃねぇの」と流石に戦慄した。その棒切れを持ったまま直人に近づく様子を目の当たりにし、啓介は顔面を殴打されながらも「直人!」と叫ぶ。
「何やってるんだ!」
渾身の啓介の叫びすらも掻き消すような、野太い男の怒鳴り声が辺りに響いた。
空気をビリビリ震わせる迫力に、そこに居た者たちは思わず一斉に動きを止める。声のした方に視線を向けると、土手の上から仁王立ちでこちらを見下ろす男の姿があった。
逆光に浮かび上がるシルエットを見ただけでも、格闘技の経験者だろうと思わせる体格だ。誰もが「何者?」と警戒する中、直人だけが嫌そうに「マジかよ。親父」とこぼした。
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