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2-③

 いつもマイペースでぽわんとしているが、さすが母親なだけあって啓介自身よりも啓介のことをよくわかっている。 「そっか、今日は男が強めの日なんだな」  殴り合いの喧嘩をしたせいだろうか。それとも、逆にそんな日だから喧嘩に応じてしまったのだろうか。少し考えて「どっちでもいいか」と血の付いたシャツを脱ぎ捨てた。バイトに行くまでは、まだもう少し時間がある。  ベッドにうつ伏せで倒れ込み、深く息を吐いた。自分の手が視界に入り、意味もなくパタパタと動かしてみる。随分節くれだってゴツゴツした指先だ。 「どっからどう見たって、男の手だよね」  この手が嫌で嫌で仕方ない日がある。  筋張った手だけでなく、喉仏も肩幅も、低い声も何もかも。  そんな日は女の子に生まれたかったと自分を呪う。クラスで女子と話しながら、鈴を転がすような高い笑い声と口元を覆う細い指に嫉妬した。  それが何日も続くこともあれば、すぐにケロッとして「男のままでもいいかな」なんて思えたりすることもある。  性別がグラグラと日ごとに揺れるのを、物心ついた頃から繰り返していた。 「男の僕と女の僕が内側で同時に存在してるなんて、直人に言ってもわかってもらえないだろうなぁ」  例えば誰かに性別を問われたら、生物学的な特徴からすれば男なので「男」と答えるだろう。だけど「男だ」と言った瞬間、とてつもない違和感に襲われるのだ。  男でもあるし女でもある。  なんなら、そのどちらでもないような気さえする。  こんな不安定な人間はこの世に他にもいるだろうかと、携帯の検索画面を開き、結局やめた。打ち込むべき言葉が見つからない。キーワードを羅列すれば欲しい答えを得ることが出来るかもしれないが、それも少し怖かった。 「僕は僕だ……」  言い聞かせるように呟いた。

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