5 / 71

2-②

 頬を膨らませる母親は、実年齢以上に幼く見える。  もとより、十九歳で啓介を産んだ母親は実際にまだ若く、姉に間違われることも度々あった。啓介はやれやれと首を振りながら念を押す。 「とにかく、千鶴は余計なコト絶対にしないで」 「えーっ、本当に大丈夫なの? ヘンなことに巻き込まれてない?」 「巻き込まれてないし、これからはもっと気を付けるから大丈夫」  心の中で「多分」と付け加えた。  また絡まれることはあるかもしれないが、出来るだけ無視しよう。最悪喧嘩になったとしても、返り血にさえ気を付ければ問題ない。  渋々納得した千鶴は、それ以上何も言わず手元に視線を戻した。部屋には再びミシンの音が響く。  千鶴が使っているのは、プロも使用する「職業用ミシン」だった。厚手の布も難なく縫えるし、何と言っても縫い目が綺麗で、商品として成り立つクオリティーが実現できる。服の仕上がりが家庭用ミシンと段違いなので、啓介も拝借することがよくあった。  雑誌で気に入ったデザインの服を見つけると、自分なりに型紙におこして再現するのが好きだった。今度は何を作ろうかと思案しながら部屋に戻ろうとした啓介を、千鶴が「ねえねえ」と呼び止める。 「クリーニング屋の奥さんがね、バイト中の啓ちゃん見かけたらしくて、『相変わらずイケメンだね』って褒めてたよ。一緒に働いてる男の子もカッコ良かったって言ってたけど、今度うちに連れて来てよ、会ってみたい。啓ちゃんとどっちの方がイケメン?」 「はぁ? 僕に決まってんじゃん。てゆーか僕のこと『啓ちゃん』なんて呼んでるうちは、ぜってー会わせないけどね」  どうでもいい事で引き留められて、苛立ったように啓介は頭を掻いた。 「この呼び方嫌だった?」 「嫌に決まってんだろ」 「なんだか今日の啓ちゃんは、男の子の割合多めだねぇ」  千鶴の言葉にハッとする。「なるほど」と思いながら自室のドアノブを引いた。

ともだちにシェアしよう!