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2-②
頬を膨らませる母親は、実年齢以上に幼く見える。
もとより、十九歳で啓介を産んだ母親は実際にまだ若く、姉に間違われることも度々あった。啓介はやれやれと首を振りながら念を押す。
「とにかく、千鶴は余計なコト絶対にしないで」
「えーっ、本当に大丈夫なの? ヘンなことに巻き込まれてない?」
「巻き込まれてないし、これからはもっと気を付けるから大丈夫」
心の中で「多分」と付け加えた。
また絡まれることはあるかもしれないが、出来るだけ無視しよう。最悪喧嘩になったとしても、返り血にさえ気を付ければ問題ない。
渋々納得した千鶴は、それ以上何も言わず手元に視線を戻した。部屋には再びミシンの音が響く。
千鶴が使っているのは、プロも使用する「職業用ミシン」だった。厚手の布も難なく縫えるし、何と言っても縫い目が綺麗で、商品として成り立つクオリティーが実現できる。服の仕上がりが家庭用ミシンと段違いなので、啓介も拝借することがよくあった。
雑誌で気に入ったデザインの服を見つけると、自分なりに型紙におこして再現するのが好きだった。今度は何を作ろうかと思案しながら部屋に戻ろうとした啓介を、千鶴が「ねえねえ」と呼び止める。
「クリーニング屋の奥さんがね、バイト中の啓ちゃん見かけたらしくて、『相変わらずイケメンだね』って褒めてたよ。一緒に働いてる男の子もカッコ良かったって言ってたけど、今度うちに連れて来てよ、会ってみたい。啓ちゃんとどっちの方がイケメン?」
「はぁ? 僕に決まってんじゃん。てゆーか僕のこと『啓ちゃん』なんて呼んでるうちは、ぜってー会わせないけどね」
どうでもいい事で引き留められて、苛立ったように啓介は頭を掻いた。
「この呼び方嫌だった?」
「嫌に決まってんだろ」
「なんだか今日の啓ちゃんは、男の子の割合多めだねぇ」
千鶴の言葉にハッとする。「なるほど」と思いながら自室のドアノブを引いた。
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