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第2話 my place

 暫く進むと鉄骨造りの二階建てアパートが見えてくる。築十五年にしては洒落た外観で、啓介はこの住まいを気に入っていた。2DKの間取りは、母親と二人暮らしには充分な広さだ。  玄関のドアを開けると、部屋の奥からミシンの音が聞こえてきた。服を作るのが好きな母親は、縫製工場に勤めながらも休日にまで楽しそうに裁縫をしている。趣味が高じて自作の服をネットで販売しているが、評判は上々らしい。 「啓ちゃん、おかえりなさーい」  ダイニングキッチンと隣り合った母親の部屋のドアは、いつも開けっ放しになっている。  冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出した啓介に気付き、母親は手元へ視線を落としたまま声を掛けた。型紙や裁断途中の布が広がった足の踏み場もない部屋に向かって、啓介は「ただいま」と返事をする。  ミシンから顔を上げた母親は、啓介を見るなりギョッとした。 「やだ啓ちゃん、なにその血! どうしたの」 「あ」  返り血で汚れていたことをすっかり忘れていた啓介が、気まずそうに顔を歪める。 「えーと、うん。へーき、へーき。これ僕の血じゃないし」 「えぇっ、じゃあ誰の血なの? なんで他人の血が啓ちゃんのシャツについてんの」 「ちょっと色々ありまして……喧嘩、みたいな?」  詮索されるのは面倒臭いなと思いながら、手にしたグラスから麦茶を口に含んだ。 「喧嘩って誰と。もしかしていじめられてるの? 学校に抗議の電話してあげようか」  その言葉を聞いて、啓介は思わず口の中に入っていた麦茶をシンクに吹き出した。しばらく咳き込んた後、涙目で母親を睨む。 「ねぇ、絶対やめてよ、そんなこと。高二にもなって喧嘩に母親が出てくるとか、恥ずかし過ぎてムリ」 「高二とか関係ないでしょー。可愛い息子が血まみれのシャツ着て帰ってきたら、ビックリするじゃない」

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