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4話 my path

「なんでむくれてんだよ。今のは何て答えれば正解だったわけ? ホントお前の扱いムズカシイな」  笑いながら頬をつねってくる直人の手を、啓介は不機嫌そうに払いのけた。鋭く睨んだところで直人は少しも怯まない。その場にしゃがみ込んで啓介の机に顎を乗せ、「ねーねー」と呑気に話を続ける。 「啓介、もう進路希望調査の紙、提出した?」 「ううん。まだ」 「どこ行くつもり?」 「直人は?」 「俺は県内の大学。お前もそこにしなよ」  すぐに返事が出来ず、啓介は逃げるように視線を窓の外に移した。青々とした木がくっきりと濃い影を校庭に落としている。かなり日差しが強そうだ。そう言えば、毎朝時計代わりに付けているテレビが、梅雨は明けたと告げていたな。  そんなことを考えていたら、机をバンバン叩かれた。 「話してる最中によそ見すんなっつーの。とりあえず俺と同じ進路書け」 「えー。まだもうちょっと悩んでたい。夏休み中に見学行こうと思って」 「どこ見に行くの?」  啓介は直人の目を見たまま一拍置いて、「東京」とだけ答えた。直人が大きく息を吐き、先ほどの啓介を真似るように窓の外へ視線を逸らす。休み時間の賑やかな教室の片隅で、しばらく二人は黙ったままでいた。  最近の直人は啓介が東京と口にするたび不機嫌になる。  啓介の頭の中を、言い訳がぐるぐる駆け巡った。行きたい理由は死ぬほどあるが、直人はどれも納得してくれないだろう。 「お前さ、ホントは彼女いるだろ。彼女と一緒に東京の大学行く約束でもしたのかよ」 「は?」  全く想定していなかった言葉に、啓介は本気で首を傾げた。

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