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第5話 encounter

 夏休みに入って早々、啓介は表参道を上機嫌で歩いていた。ショーウィンドウに自分の姿を映し、カットしたばかりの髪を満足そうに眺める。  オーバーサイズの白いカットソーに、アンクル丈の黒いワイドパンツ。足元は踵からつま先までヒールの高さが同じプラットホームサンダルで、黒いエナメル素材に映える銀色のスタッズが気に入っていた。  好きな服を着て好きな街を歩くのは気分がいい。  最先端の文化を発信しているという自負とプライドが街全体から伝わってきて、それがとても心地よかった。  そのまま歩いて目的地である私立大に辿り着く。進路調査票で桜華大を消した跡に上書きした大学だ。  正門をくぐり、キャンパスまで続くイチョウ並木に圧倒された。受付で参加証を提出し、そのまま奥に進む。受付と併設するテントには赤本やら運動部のグッズやらが販売されていて、商魂たくましいなと感心した。  青々と茂った木々の隙間からこぼれる日差しを眺めていたら、都会のど真ん中にいると言う事を忘れそうになる。案内する在校生も見学に来た受験予定の生徒らも、誰もが皆、高揚しているように見えた。  夏の匂いの満ちたキャンパスを、啓介はぐるっと見回す。ここに通えたら良いなと思う一方で、このキャンパスに馴染んでいる自分の姿はまるで想像できなかった。  それは上京が難しいからというような現実的な問題ではなく、単純に「自分には似合ってないな」という感覚的なものだ。  来たばかりだけど、もう帰ろうかな。そう思って来た道を戻ろうとした時、背後から肩を叩かれた。

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