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5-②

「ねえ、キミ高校生? 一人で来たの? 心細いでしょう、案内してあげるよ」  振り返ると、なんとも爽やかそうな青年が満面の笑みを浮かべて立っていた。必要ないと思った啓介は首を横に振って見せたが、青年は諦めずになおも食い下がる。 「そう言わずにさ。あ、もうお昼は済ませた? ここの学食有名なんだよ。一緒にランチでもどうかな。ご馳走するよ」 「いえ、結構です」  啓介が声に出して断ると、明らかに動揺したように青年は目を泳がせた。 「えっ、あれっ。声低いね。もしかしてキミ、男の子?」  青年の口から放たれた言葉で、ああ、ナンパだったのかと理解した。  そう言えば今日は化粧をしているし、チョーカーで喉仏も隠れている。カットしたばかりとは言え、男にしてはまだ髪は長い方だろう。くるぶしまであるワイドパンツは、スカートに見えるかもしれない。  女性と見間違えられるのも無理はないかと納得しつつ、小さくため息を吐いた。男かと聞かれて直ぐに頷けない自分がいる。  青年は見定めるように、改めて啓介の爪先から頭のてっぺんまで視線を這わせた。服の中までスキャンされているような感覚が不快でたまらず、その場から離れるために踵を返す。 「紛らわしいカッコすんなよ。おとこおんな」  背後から聞こえた声を無視して立ち去ると言う選択肢もあったのだが、啓介は立ち止まることを選んだ。舌打ちと共に吐き出された毒が、足元からじわじわ這い上がって来る。こんな悪意に蝕まれるのは、まっぴらごめんだ。 「アンタが勝手に絡んできたんでしょ。僕は好きな格好してるだけ。ほっといて」  気付くと手を伸ばして青年のシャツを掴んでいた。そのまま襟首を捻り上げると、体が浮いた青年が苦しそうに顔を歪ませる。啓介が華奢なので、無意識のうちに性格まで大人しいと思い込み、油断していたのだろう。  手を離すと青年は、ヘナヘナと腰を抜かしたようにその場に座り込んだ。それを冷たく見下ろして、啓介がフンと鼻で笑う。髪をかき上げ、これ以上関わるのは時間の無駄だと言わんばかりに、啓介は何事もなかったかのように駅に向かって歩き出した。

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