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第7話 conflict

 好戦的な笑みを浮かべる笹沼に、啓介も挑むように口端を上げる。  いつの間にか華々しいBGMは消えていて、会場には落ち着きのあるサウンドエフェクトが流れ始めていた。それとは対照的に、バックステージは相変わらず慌ただしく人が行き交っている。  笹沼は「さてと」と、一段高い声を出して切り替えた。 「今ので最後の発表だから、これから会場にいた観客の投票が始まるの。その後、集計作業と審査員の協議だから、結果発表は明日になっちゃうんだ。明日も来れる?」 「んー。明日はムリかな」 「そっか。学校のホームページに結果が載るから、気が向いたら見てみてよ。ちゃんとお礼したかったけど、また今度会えた時にね」 「いいよ、お礼なんて」    貴重な経験をさせて貰えて、礼がしたいのはこちらの方だと啓介は肩をすくめる。  本来ならば会場にすら入れなかった自分が、スタッフオンリーの場にまで足を踏み入れることが許されたのだ。そんな機会はそうそうない。  自分の先を行く人たちも、震えながら戦っていると知ることが出来た。  そんな臆病で慎重で大胆で負けず嫌いな人たちが、拳の代わりに己の才能を駆使してステージ上で殴り合う世界。  それでもまだここは、入り口なのだと言う。  ゾクゾクした。自分はギャンブラーなのかもしれないと思った。  賭けるのは自分の人生だ。もし負けたら、墓の中で大笑いしよう。 「お疲れ様! 初めてとは思えないステージだったよ。『あの子誰?』って、いろんな人に聞かれちゃった」  背中を叩かれ、啓介が振り返る。そこには里穂が立っていて、啓介の私服を抱えていた。 「更衣室で着替え終わったら私に声かけてくれる? ここでウィッグ外して、髪の毛セットし直してあげる。カラコンはそのまま付けて帰っていいよ」 「わかった。ありがとう」

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