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7-⑦
髪をセットし直した後、スッピンの啓介の顔を見てニンマリ笑う。
「ねぇねぇ。ちょっとこの色のアイシャドーとリップ試したいんだ。顔貸してくんない?」
「え。その言い方コワイんだけど。自分の顔で試せばいいじゃない?」
「だって、せっかくこんなに映えそうな顔があるのに」
「やだよ。僕、もう帰りたい」
疲れ切った表情で訴えれば、しょうがないなぁと諦めてくれた。
「じゃあ、来た時と同じ感じでいい?」
「うん。あ、待って。来た時より薄めがいい」
直人が『戻ったら飯食おう』と言っていたことを思い出す。あまり濃いメイクでは嫌がられそうだ。
啓介のリクエストに「はいはい」と答えた里穂は、化粧下地を丁寧に塗っていった。
「超肌キレイ。なんかこれだけで充分って感じなんだけど。ファンデもコンシーラーも出番は無いな。とりあえず、アイライナーを目尻にだけ入れておくね。リップはどうしようかなぁ」
里穂がメイク道具一式に目線を落としたので、啓介もつられてそちらを見た。何種類もあるファンデーションや絵の具のパレットのようなアイシャドウ、筆も太さの違うものが一通り揃っている。
「メイク道具って、やっぱり高いヤツの方が良い?」
「そりゃそうよ。でも、舞台用のメイクなら私は安いので揃えちゃってる。発色さえ良ければ、百円ショップのでも割と問題ナシ。だって、他にもいっぱいお金かかるしさぁ。どうせなら布代に回したいよね」
確かに、と頷きながら、啓介は質問を続けた。
「バイトってしてる?」
「してる。ドラッグストアで。試供品とか貰えるの、すっごい有難いんだよね。本当はガッツリ稼ぎたいけど、そうすると課題やってる時間ないし、もう万年金欠よ」
実感のこもった里穂の言葉に、啓介までげんなりしてしまう。
「バイトのせいで課題が出来ないなんて、本末転倒もいいところでしょ? まぁ、仕送りが充分な額だったり実家から通えるなら、そんなにガツガツ働かなくて良いんだろうけどね」
「うわ。超シビア」
泣きそうな顔をした啓介は、アイラインを引いてる真っ最中だった里穂に「動かないで」と叱られ、シュンとした。
どうせ何かしらバイトをしなくてはいけないのなら、モデルの仕事はこの上なく条件に適している。それどころか、おまけに授業料免除まで付いてくる可能性があるのだから、断ったら罰が当たりそうだ。
もしこれが誰か他の人の話なら、迷っていると聞いただけで「馬鹿じゃないの」と思うだろう。選択肢は一つしかないように見える。
けれど、いざ自分のこととなると話しは別だった。代償は決して小さくない。
特待生としての役割を果たすべく、モデルとして立派に活躍し、その上で学生としても何かしらの実績を残すなど、本当に出来るだろうか。さらに素顔を隠す為に撮影用に近いメイクをしたままキャンパスで過ごすだなんて、目立って仕方ない気がする。
周囲にどんな風に見られるか、考えただけで今からプレッシャーで吐きそうだった。
そんな不安が啓介の顔に出ていたのかもしれない。里穂が考え込むような仕草をしながら、ポツポツ話し始めた。
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