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7-⑧

「いっぱい悩んで志望校決めなね。この学校もさ、一年生の時は二人で一つの作業台使って、教室もぎゅうぎゅうだったの。なのに四年生の頃には人数が減って、今では悠々と作業台を一人で占領できちゃうんだ。……半分くらい辞めちゃうんだよ。ここを去って軌道修正した人たちも別の分野で頑張ってるから、遠回りにも意味があると思うけどね。ホント進路って難しいよね」  里穂は睫毛に透明なマスカラを塗って仕上げ、よしよしと頷く。 「ハイ完成。お疲れサマ、今日はありがとうね」 「こちらこそ。いっぱい聞いちゃってごめんね。でも、凄く参考になった」  アドバイスを噛みしめながら、啓介は椅子から立ち上がった。里穂が手渡してくれたコンパクトミラーを覗き込み、鏡の中の自分に「出来るだろうか」と問いかける。  いい加減、ぐるぐる同じ思考を繰り返すのにも疲れて来た。  もう、メリーゴーランドからは飛び降りよう。  ふとステージ上の高揚感を思い出す。あの時の覚悟を、モデルの方にも適用してやろうじゃないか。  出来るか出来ないかではなく、やるかやらないかの二択だ。 「とりあえず、頑張ってみる。頑張ってもどうにもならない世界なんだろうけど。先ずはやってみないと、なんにも始まらないもんね」 「あはは、そうだね。でもさ、『やってみたいな』ってところから、実際に『やってみよう』って行動に移せる人、案外少ないんだよ。だから、頑張ってみようって思うのは、実は凄いコトだよ」  啓介は自分の足元を見た。何もないただの床に、白線が引かれているような気がする。  ここが出発点なんだと心に刻んだ。  啓介は大きく一歩踏み出し、見えないスタートラインを勢いよく飛び越えた。

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