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12-③

 他のモデルたちは撮影中か待機中なので、更衣室は現在三人の貸し切り状態だ。それでも快が加わると、部屋は途端に賑やかになる。しばらく永遠と会話を続けた快は、衣装に着替えながら啓介に向かって高圧的に問いかけた。 「名無しの家って遠いんだろ。学校終わってからだと、永遠の家には何時に来れんだよ」  加勢から名無しと呼ばれるのもどうかと思っていたが、快にまで言われるとさすがに腹が立つ。啓介は「七時」とだけ答えて、これ見よがしにムッとした表情を作った。そうすると、快も負けじと同じように眉をしかめる。 「何だよ。名無しで間違ってねーだろ。イヤならさっさと名前決めろよ」 「別に。僕なにも言ってないじゃん」 「だったらムカつく顔すんな」 「は? ムカつく顔してんのはそっちでしょ」  睨みあって一歩も譲らない啓介と快の間に、永遠が「もー!」と憤りながら割って入る。 「何ですぐケンカしちゃうかな。二人とも大人でしょ。仲良くね」 「大人じゃねぇよ」 「中二から見たら、高二は充分オトナだよ」  年下に注意されるのはさすがにバツが悪いようで、快はそれ以上何も言わずに背を向けた。啓介はその背中に向かって心の中で舌を出し、それから鏡に映る自分を眺めて「うーん」と唸る。 「ねぇ、永遠。今日のコーデもアレンジして良いと思う?」  話しかけられた永遠は啓介の隣に並び、鏡の中を覗き込んだ。 「黒いサスペンダー付きの七分丈ボールパンツに、ストライプのシャツとリボンネクタイかぁ。凄く似合ってるけど、どこを変えたいの?」 「リボンネクタイ。あと、これにベストを合わせたい」  結んだ襟元のリボンを解きながら啓介が答えると、永遠は手を顎に軽く添えて「ふむふむ」とうなずいた。いつの間にか背後に来ていた快が、啓介の肩越しに尋ねる。 「リボンやめて何を代わりにすんだよ」 「ゴーグルが欲しいなって思ってる」 「頭の中のイメージはどんな?」 「スチームパンク」  答えると同時に快が大きく舌打ちをした。鏡に映る快の表情がみるみる曇る。その瞬間啓介は「今日は勝ったかもしれない」と少しだけ高揚した。快は明らかに不機嫌そうで、親指の爪を噛みながら一点を見つめ何か思案している。恐らく啓介の提案したコーディネートに嫉妬し、対抗するための組み合わせを必死に脳内で描いているのだろう。 ――きっと、快に嫉妬した自分もあんな顔をしているんだろうな。  高揚したのも束の間、鏡の中の自分と快を見比べ、勝ち負けに囚われてばかりいることにほんの少し嫌気がさした。

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