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第1話
外は大雨。止むのを待っている。バスで通学していたがバス停まで少し距離があるからこんな大雨だといくら傘をさしていてもずぶ濡れだ。下着までずぶ濡れ確定。そして僕は絶望している。
僕の傘が無い。
雨は強くなる。スマホも充電切れてお母さんに連絡できない。でも母さん自身免許持ってないから電話したところでどうにもならないか。
どうしてこの日に限って、僕は図書館で雨が止むのを待ってる最中に寝てしまったの。
司書の先生も起こしてくれればよかったのに。そっと優しく毛布をかけてくれた。そんな優しさ、今はいらない。
「水城くん、司書の先生から聞いたよ。図書館で寝てたって……もう6時過ぎてるし、この雨だから先生が送っていくぞ」
あ、担任の佐々木先生。
助かった……もう止みそうにない雨。傘も無い。
「傘も無いのか? じゃあここで待ってて。車ここまで持ってくるから」
担任とはいえ、あまり知らない佐々木先生。優しい人だけど話をし出すと止まらない、タバコの匂いがフワッとするおじさん先生。そんな印象。車はすぐ来た。
そんなことよりも救世主、先生は車から降りて傘を差し出してくれた。先生、濡れてるよ……。
「確か……氷見ヶ丘だよね?」
「は、はい」
雨は止まない。でも助かった。あんな雨の中歩けない。傘無しでは。
ん? 流れてる音楽……
「あ、妻が好きでね」
先生は愛妻家で有名だ。僕の好きな歌手の曲。僕のパパとママと年齢はそう変わらないと思ったけど、好みが一緒なんて。
「水城くんも好きなんでしょ? グッズとか見たことがある」
……バレてる。僕はあまり周りには言ってなかったけど……名前のロゴが付いていないグッズをつけていたが。
恥ずかしくて俯いた。先生は少しボリューム上げてくれた。雨の音と好きな音楽。嬉しいのやら、なんなんだろうか。
僕はふと先生を見る。……いつも見ない角度から見る先生。横顔。
なんだろ、これ、赤い実が弾けた系?と、昔の教科書の一文を思い出す。
いや、先生は40過ぎだし、既婚者だし。ましてや愛妻家。
「水城くんとはあまり話したことなかったな。また今度話そう」
気づいたら家の前に着いていた。……僕は顔が真っ赤になった。
「あ、ありがとうございました!」
僕は勢いよくドアを開けて飛び出した。先生の少し微笑んだ顔に、ドキッとしてしまった。
親に声をかけてそのまま自分の部屋に飛び込んだ。僕はベッドの上でクッションを抱きしめ……。
しまった、車から出た時に傘をささなかったから制服や髪の毛は濡れている。冷たい、ひんやりしてる。
次の日、風邪ひいた……。
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