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第1話

一度死にかけたことがある。 当時小学生だった遥輝(はるき)にとって、大勢から向けられる心配の目は焦燥感を掻き立てた。自分は本当にこのまま死んでしまうのではないか、誰からも忘れられてしまうのではないか、そんな考えが頭をよぎる。普通ではない周りの様子は負担でしか無かった。 しかし治ったからといって、周りの様子はいつも通りには戻らなかった。過保護になった両親、よそよそしい友人、先生の配慮。周りの子どもとは違う扱いにうんざりした。 この死にかけた経験は遥輝にとって「人に弱さを見せてはいけない」ということを学ばせた。 それからというもの、居心地の悪い学校には行かなくなり、家にも帰らず街中をフラフラする。警察に見つからないようにしていれば、悪いお兄さんたちに見つかるのも当然だった。そこは遥輝にとって居心地のいい場所となった。誰も遥輝が死にかけた話など知らずむしろ自分の武勇伝を語る。 過保護な両親も「生きていてくれればいい」と言って遥輝のすることに何も口を出さなかった。 その結果、小中不登校、高校中退、現在22歳フリーターのゴミのような人間が出来上がった。昼間は気分次第でガソリンスタンドでバイトをして、夜は友人と酔いつぶれるまで酒を飲む。それが日常だった。 「なぁ遥輝、女呼べよ」 「いっすよ。俺が呼べば何人でも来ますから」 「さっすがヤリチン」 いつも通りの夜、数人の卑下た笑い声が居酒屋の店内に響く。スマホを使って何人かの女に連絡をすると、すぐに行くと言った旨の返信きた。 「遥輝がいると女の子と遊べてまじ楽しいわ。これからもよろしくな」 「っす」 脇に座っていた先輩が肩を組みビールのジョッキを片手に笑う。こうしてまた夜が更けていった。 「ねぇ遥輝大丈夫〜?」 「…らいじょぶらって〜よゆーよゆー」 「まじー?」 「みてろ俺のひっさつとびげり…」 「ねぇそれバス停だって!やばいじゃん!」 ギャハハハと周りが笑う。遥輝は相当酔っていることを自覚しつつ、先の必殺飛び蹴りは思っていたより飛んでいなかったらしく強打した足と背中が痛みを感じた。そしてその後無情にも「じゃーねー」と言って解散した女と友人は既に夜の闇に消えていた。 ――あー痛てぇな。やべぇわこれ どうやら捻ったらしい方の足をずりずりと引きながら街灯の下を歩く。家までの道のりはまだまだではあるが、未だ酔いの回った頭で何とか進む。しかしこのような状態でまともに歩けるはずもなく道端で力尽きた。どうやって帰ろうかと考えられる思考力も無く、ただそこで時が経つのを待っていた。 「あのー…もしかして酔っ払い?お兄さん大丈夫?」 遥輝が目線をあげるとそこにはスーツを着ている少しなよっとした男が立っていた。スーツの男は何言か遥輝に話しかけるが反応はない。目は開いていて意識はあるようだが全く動こうとしない。男は少し悩んだ末に、少し歩いた先にあるホテルに行くことにした。そしてチェックインをしてベッドに遥輝を寝かせると、自分も寝る支度をしようとシャワーを浴びて隣のベッドへ入った。

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