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第3話
「適当におかず買ってきたんだけど、もうご飯食べた?」
「いや朝から何も食べてない」
「ほんと?じゃあ食べよう」
電話を切ってから1時間と経たずに遥輝の家へきた篠田は、遥輝の言葉に驚くと真っ先にスーパーの袋からお惣菜を取り出した。カップラーメンばかりを食べていた遥輝にとっては久しぶりのまともなご飯だった。
ご飯を食べ終わり遥輝がダラっとしていると、袋にまだ何か入っているのが見えた。中には湿布やガーゼ、包帯が入っていた。それに気付いた篠田が言う。
「足と背中怪我してたでしょ」
「大丈夫だって言っただろ」
怪我をしている本人が止めているにも関わらず、手当をする気マンマンの篠田は黙々と準備をする。
「お前お節介って言われない?」
「あはは、よく言われる」
「変なやつ…」
遥輝の皮肉に苦笑するも手は止めず、遥輝も諦めて手当を受ける。足の方は自分でも確認が出来たが、背中の方はどうしようもなかったため篠田に見せるよう言われ初めて怪我の具合を確認した。
「うわ、青くなって擦りむいてるよ」
「まじかよ、最悪」
遥輝は見ることは出来ないものの篠田の言葉で背中の様子が想像出来てしまい、余計に痛みが増したような気がする。そこも丁寧に手当てされるといつの間にか篠田への印象は変わっていった。
「そういえばお前何歳なの?」
「26歳だけど遥輝くんは?」
「年上じゃん、22」
「嘘、お酒覚えたての大学生かと思った」
はぁ?と遥輝がキレると、「だってあんな酔っ払い方してるのなかなか見ないよ」と言われて笑われる。知らない間に怪我もしてるくらいだし、と言われると何も言えなくなった遥輝は顔を赤くして俯く。
「俺だってあそこまで酔うことはそうそうねーよ!」
「ってことは前もあったんだ」
言い訳のように言葉を紡ぐも、揚げ足を取られまた笑われる。
――こいつといると調子狂う…
遥輝がいつもいる友人は、遥輝の苦手な『気遣い』ができるほどの頭を持ち合わせてないような人達で、だからこそ居心地がいいと感じていたのだ。しかし篠田は最初こそお節介で一番苦手な部類だと思ったはずなのに、いつの間にか軽口を叩きあっている。
「まあ、また何かあったら僕を頼ってね」
そう言って遥輝の頭をポンと撫でると、泊まる訳にはいかないからと言って帰る支度をする。
「ありがとう。楽しかったよ」
礼を言うのはこっちだろ、と遥輝は思いながらも「おぅ」と覇気のない声で篠田を見送る。
バタンと閉まったドアを見ながら、まるで子ども扱いのように撫でられた頭に触れしばらく固まっていた。
―大川遥輝22歳童貞自称ヤリチンフリーターの悔しくも初めての恋の始まりだった。
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