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第2話
もしもこれが映画やドラマの世界なら、人類最後の生き残りである主人公は僅かな生き残りの人間に助けられたり、ゾンビ化しても人に戻れる抗体を見つけ出したりして最後までゾンビにならず生き残るのだろう。
しかし、ひばりは噛まれた。
呆気なく噛まれてしまったのだ。
「ま、そう簡単に映画みたいにいくわけないよな」
ひばりは再び呟くと、ベッドにごろりと転がった。
時計を見上げるとちょうど12時を指している。
自宅にあるこの壁掛け時計が正しい時間を指しているのかは不明だが、もはや正確な時間などはどうでもいい。
知りたいのはひばりの人としての終わり、もっといえば人類が本当に滅亡するまであと何時間あるかだけなのだ。
タイムリミットは明日のこの時間。
感染者に噛まれたものは24時間後に死に、その後生きる屍となって蘇り、何の目的もなくこの世を彷徨い続ける。
この目で何度も見てきた人の末路だ。
なぜ、自分だけここまで生き延びてこられたのか、ひばり自身もよくわかっていなかった。
ひばりは特に運動神経がいいわけでも頭が良いわけでもない。
通っていた大学でも特に目立つタイプじゃなかったし、どこにでもいる平凡な男だった。
ただ、たまたま運が良かっただけなのだ。
いや、運が悪かったとも言える。
世界に異変が起き始めたちょうどその日…
ひばりは好きだった相手と盛大に喧嘩をし、別れた。
相手は高校からの親友で恋人でもあった。
名前は鷹尾一星 。
成績優秀スポーツ万能、顔も体格も良いくせに無口な男だった。
喧嘩のきっかけはひばりのくだらない嫉妬心だった。
一星を取り巻く人間に対してもだが、なんでも卒なくこなす一星自身への嫉妬心もあった。
一星の事が好きだという気持ちはあるのに、一緒にいると息が苦しくなる。
自分でもよくわからない感情に振り回され、知らず態度に出てしまい喧嘩が増えた。
そして、耐えきれなくなったひばりは遂に電話越しで別れを告げたのだ。
一星は珍しく声を荒げ、今からそっちに行くから話をしようと言ってきた。
だがひばりは突き放した。
「一星とはもう一緒にいられない」
そう言ったのが最後。
電話を切ったひばりが傷心を抱えメソメソとしながら部屋に引き篭もっている間に世界はみるみる変化していったのだ。
「一星…どうなったんだろ」
ひばりのひとりごとが壁に吸い込まれて消えていく。
世界がこうなってから何度も確かめに行ってみようと思った。
賢い一星のことだから、どこかで生きているに違いない。
もしも生きていたら、きっと助け合って生きていけるはずだ。
だが、あの日電話で言ってしまったセリフがひばりに二の足を踏ませていた。
あんな事を言ってしまった手前、どんな顔をして一星に会ったらいいのかわからない。
そんな風に悶々としている間に、ひばりは人類最後の生き残りになってしまったのだ。
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