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第3話

生き抜くのに必死という言い訳で、目をそらし続けていた一星(いっせい)の事。 だが一日たりとも忘れた事はなかった。 会いに行こう。 ひばりはふと思い立った。 一方的で身勝手に別れを告げてしまったが、本当はずっとあの日の事を後悔していたのだ。 一星に会って、あの日の事を謝ろう。 たとえ一星が変わり果てた姿になっていたとしても構わない。 会って謝るのだ。 そう思ったひばりは居ても立っても居られずベッドから飛び起きると、護身用の武器も持たずに外へ飛び出した。 自宅から一星の家までは約2キロ。 世界がまだ平和だった頃は徒歩で20分もあれば行けた距離だが、あちこち彷徨っているゾンビを避けながら進んでいたため、一星の自宅に到着した頃には既に夜を越してしまっていた。 次第に重くなっていく体。 噛まれた方の腕は既に感覚がない。 ウイルスがじわじわと体を蝕んできている証拠だ。 二階建ての家の玄関先で彷徨っていた一星の母親らしきゾンビを避け、スルリと中へ滑り込む。 何度も足を運んだ懐かしい間取り。 ひばりははやる胸を抑えながら一星の部屋の扉の前までやって来た。 すると中からゴン、ゴン、と何かが壁に衝突する音が聞こえてくる。 そっと扉を開くと、カーテンの閉まった薄暗い部屋の中、壁に向かう人影を見つけた。 一星だ。 青白い顔に大きく傾いた体。 変わり果てた姿だが、生前の面影はちゃんとある。 込み上げてくる涙を堪えながらひばりはそっと一星に近づいた。 ゴン、ゴン… 一星はまるで何かに取り憑かれたかのように唸りながら部屋の壁に向かってぶつかり続けている。 「一星…」 ひばりの声に一星の動きが止まった。 こちらに気づいたのか、一星はゆっくりとした動きで首を傾ける。 瞳孔のない白い眼がひばりの姿を捉えた次の瞬間。 「う…ぅぅ…ああア…がああぁあッッ!!!」 突然一星が歯を剥き出しにして飛び掛かってきた。 反射的に逃げようとしたが床に散乱していた本に足を取られて逃げ遅れる。 噛まれる! なす術なくもひばりは覚悟を決めた。 どうせ一度噛まれているのだし、どのみち助かりはしない。 だが、いくら待てども一向に痛みが襲ってこない。 見ると一星は歯を立てることなくひばりの肩口に顔を押しつけたままうーうー唸っている。 「え…なんで…?」 不意に足元がパッと明るくなった。 一星が片手に握りしめていたスマホに電源が入り画面が明るくなっている。 ひばりは一星の手からスマホを抜き取ると、恐る恐る画面を見た。 【母さんに首を噛まれてしまった。もう両耳がきこえない。指先も痺れてだんだん感覚がなくなってきてる。きっともうすぐ俺もアレになるんだろう。ひばりは生きてるのか。話がしたい声が聞きたい。謝りたい。会いたい】

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