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第4話

「………字、綺麗」 六年の秋頃。 前の席に座っていた女子が、俺のノートを覗き込んでそう呟く。 「字を綺麗に書く男の人って……私、好きなんだ」 そう言って、彼女が上目遣いをしながら俺の顔を覗き込む。 それから彼女とはよく話すようになって、成り行きで付き合う事に。 〖おめでとう〗 手紙で報告すれば、ソラは自分の事のように喜んでくれた。 人生初の彼女。可愛いし、良い匂いはするし、一緒にいて楽しかった。 しかし、成り行きで付き合ったからなのか。ソラに対して感じるような、心の繋がりは感じられなかった。 付き合って二ヶ月が経ったある日。 漫画の話から、彼女が俺の家に来る事になった。 俺の部屋に入るなり、落ち着かない様子の彼女。例の単行本を本棚から取り出し、キョロキョロと部屋の中を見回す彼女に渡す。 「……飲み物、持ってくる」 「うん」 笑顔を返す彼女を残し、階段を下りる。 冷蔵庫にあったジュースを用意しながら、いつもと違うシチュエーションに緊張感が高まっていた。 気を落ち着かせてから、二階へ。……と、目に飛び込んできたのは──引き出しの中を漁る、彼女の後ろ姿。 「………これ、何?」 振り向いた彼女が、悪びれる様子もなく封筒とノートを掲げてみせる。 不穏な空気。怪訝そうな眼。 「文通だよ」 「………へぇ。いつから?」 「確か……小三、だったかな」 「綺麗な字。きっと、美人なんでしょうね」 「……」 「ねぇ、裕輝(ひろき)くん。本当は私の事、好きでも何でもないでしょ」 「………は?」 予想外の台詞に、変な声が出てしまう。 「だってこれ、日記じゃなくて手紙を書く為のネタ帳……よね」 「……」 彼女が、パラパラとそのノートを開く。 「オザケンが、皆の前で派手にコケて爆笑したとか、山本の寝癖が芸術的で笑えたとか。……こんな、どうでもいい事まで書いてるのに──」 「……」 「──どうして私の事は、一行も書いてないの?」 バンッ。 両手で挟むようにして、閉じられるノート。彼女の鋭い視線が、俺を責めるように貫く。 「……」 理由は……とても単純なものだった。 彼女が出来たという報告をして以降、ソラからの返事が遅れるようになったから。 多分、気を悪くしたんじゃないかと…… 「……もういい!」 持っていたノートを投げ付けつけ、彼女が部屋を飛び出していく。 折られて皺の入った、ソラからの手紙。 「……」 追い掛けて、引き止める事が出来ず──彼女とは、終わった。

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