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第8話

何で…… ソラの言葉に、切ない程胸を打たれながらも、ざわざわと胸騒ぎがする。 ふと脳裏を過ったのは──体調を崩して入所したという、絵葉書の文面。 「……」 何処かで、聞いた事がある。 治る見込みのない患者が、穏やかな余生を過ごす為の施設があるって…… 「ずっと、伝えたいと……思ってたんだ。 ……だから、まさかヒロの方から、会いに来てくれるとは思わなくて……」 小さく震える、ソラの肩。 そっと触れれば、見た目よりも随分と痩せ細っている事に気付く。 「……」 どうして……躊躇なんかしていたんだろう。 なんでもっと早く、ソラに会いに行かなかったんだ…… もっと早く、気付いていればよかった。 少し……ほんの少しでいいから、一歩を踏み出す勇気があればよかった。 そしたら、ソラは─── 「───、俺だって!!」 良く、解らない──腹の底から湧き上がってくる熱い何かが、俺を大きく突き動かす。 「俺だって、……同じだよ。 いつもソラを、近くに感じてた。 俺の心ごと、優しく受け止めてくれるソラからの返事が、嬉しくて。いつも待ち遠しくて。次は、何を話そうかって……、そんな事ばっか考えてた」 「……」 「だから……! ……だからもし、ソラがいいと言うなら。……また、ここに来るよ。 何度でもソラに、会いに行くよ!」 声が、震える。 溢れてくる涙を……止められそうにない。 それに気付いたのか。ソラの手が、肩に置いた俺の手に触れ、俺を探すように涙で潤んだ瞳を向ける。 「それで………ソラが聞きたい話、いっぱいするから……!」 だから──どうか、死なないで…… ……生きて──! * ザザ…、ザザザ…… 波打ち際で水を掛け合い、燥ぐ二つの人影。 燦々と輝く太陽の下で、楽しそうに笑い合う少年達。 窓から吹き込む風に靡き、ひらひらと床に舞い落ちる絵葉書。 白衣を着たおばさんが、病室のベッドメイクの手を留めて、拾い上げる。 「………あら、忘れ物かしら」 それは、窓から射し込む晩夏の斜陽が見せた幻か。 宛先の面を確認し、もう一度葉書をひっくり返せば──もうそこに、二人の姿は無かった。 end

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