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第2話
外を吹き荒れる風の唸り声で、バーラは目を覚ました。
冷たい雨が、窓を叩く。
気象はある程度制御可能な聖地カラドでは、珍しい事だ。
だが、外の嵐は隣に眠る人の温かさを、増してくれる。
「ニネット」
彼を起こさないように、小さな声で囁いた。
すっかり髭だらけの顔。
口づけしようと顔を寄せると、目尻に浅く皺を見つけた。
もう一度、聞こえない声で呟いた。
「ニネットおじさん」
いつからだろう。
自分がニネット様を、ニネットお兄さん。そして、ニネットと呼ぶようになったのは。
時は駆け行き、彼ももう34歳の立派なおじさんだ。
「いや、覚えてる」
ニネット様が、ニネットお兄さんになった瞬間を、バーラは今でもしっかり覚えている。
思い出したくないだけだ。
外を荒れる風のように、恐ろしかったあの時。
冷たい雨粒のように、心を凍てつかせたあの時。
僕をしっかりと抱きしめて、守ってくれたこの大きな手。
思い出してしまうと、やはり怖い。
恐怖から逃れるように、バーラは少し強くニネットの胸に顔を埋めた。
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