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第一章:日常の快楽(1)
――prologue
どんなに抱かれても、満たされない毎日――
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各駅停車の電車から、ラッシュアワーのプラットホームに降りると、暖かい朝の光が僕を優しく照らす。
制服の肩がふんわりと暖かい。
その太陽を見たくて、額に手を翳してみた。
指の隙間から空を見上げると、少しだけ手を伸ばせば、そこに届きそうな、そんな気がするけれど……。
「……眩し……」
憧れはいつも遠すぎて、眩しすぎて、手を伸ばす事さえ出来ないでいた。
――そして今日も、いつもと変わらない一日が始まる。
快速急行に乗り換える為に、人混みをすり抜けて向かい側のホームに急ぐ。一番前に並ぶ為に。
電車が到着してドアが開くと、まるで吸い込まれるように人が流れて行く。一番前に並んでいた僕の身体は、後ろから押されて反対側のドアの所まで押し込まれる。
――これが僕の定位置。
ギュウギュウに詰め込まれた電車の中は、4月だというのに、ムッとした空気が漂っていて、じんわりと汗ばむ。
動き出した電車の揺れに合わせて、ドアのガラスに押し付けられる。
この状態で次の駅まで約15分位。 そこが僕が降りる駅。
また電車が大きく揺れて、押し付けられたドアと身体の間に少し隙間ができる。 なのに、何かが僕の尻の辺りに触れたまま離れない。
誰かの鞄が当たっているのかもしれない。
電車の揺れに合わせて、触れるか触れないかの微妙さで、尻臀を何度も触れたり離れたりしながら……それは段々と中央へ移動していき、やがてその割れ目を下から上へなぞるように動く。
僕の耳元に時折かかる、背後に立つ人の呼気が、濡れているように感じるのは、通勤通学で混み合う空気の所為だけではなさそう……。
その時、電車はカーブに差しかかり、また大きく揺れて、僕の身体に重力が掛かりドアに押し付けられる。
押し付けられているドアに、何本もの腕が伸びてきて、僕の顔の横の窓に手を付いている。
カーブを抜けて、いっせいに窓から手が離れていく。だけど、すぐ後ろに立つ人の左腕だけが、僕の顔の横から離れないまま。背中に感じるその人の体温は、遠ざからない。
(……!)
さっきまで微妙に触れていたものが尻臀を包み込むような触り方に変わり、人肌の熱を感じた。
――分かってる……。これが鞄なんかじゃない事くらい。
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