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―― 偽り(4)
「…… どうなんだ?」
黙ったまま睨みつける僕に、先生は答える事の出来ない質問を繰り返した。
「しつこいな……。 僕が何でもないと言ってるんだから、父さんに連絡なんてする必要ない! もう帰ってよ!」
部屋のドアを開けて、先生の身体をグイグイと廊下へ押し出す僕の頭のてっぺんに、先生の長い溜息がかかった。
「分かった…… 分かったから」
先生を押し出して、すかさず部屋のドアを閉めようとしたのに、それよりも早く先生はドアを掴んで、それを阻む。 そして言葉を続けた。
「今日は帰るよ。 だけどまた来る。 君が学校に出て来るまで、毎日来るよ」
「何で? なんで毎日来るわけ? ただ体調悪くて休んでるだけなのに」
「休んでる間のプリントとか、渡さないといけない物もあるし」
そう言って、先生は鞄の中からプリント類の入ったクリアファイルを取り出した。
「ほら、これは今日までの分。 保護者の方に読んでもらいたいものもあるんだ。 だから……」
先生が最後まで言い終わらないうちに、その手からクリアファイルを奪い取って、僕は仕方なく言った。
「学校には明日から行くよ」
これ以上詮索されたくなかったから。
「…… 本当か?」
「本当だよ」
目線を合わせたまま、どちらも外さず、重苦しい沈黙が数秒間流れた。
静かだけど強い意思を感じる瞳に、僕も負けじと見つめ返していた。
「分かった」
最初に沈黙を破ったのは、先生の方だった。
「じゃあ明日……、学校で待ってるからね」
僕の気持ちを確かめるように目を合わせたままそう言って、先生はドアから手を離し、ゆっくり後ろへ身を引いていく。
僕も先生の目に視線を合わせたまま、ゆっくりドアを閉めた。
「待ってるからね」
多分まだドアの前に立っているだろう、先生の声。
「分かった……」
僕が小さい声で返すと、少し間を置いて階段を下りて行く足音が聞こえて遠退いていった。
―― 今まで…… 誰からも、こんな風に干渉される事なんて無かった……。
それはきっと……、関心が無いからじゃなくて、多分関わり合いたく無いからだろう。
でも藤野先生は違う。
彼は、僕の事を何も知らないから…… だから、鬱陶しい程に構ってくるんだ。
「…… ホント、鬱陶しい……」
明日から始まるだろう鬱陶しい干渉に、憂鬱になるけど……。
でも、この家の中は…… 僕の領域であるここにまで、土足で入り込まれるのは避けたかった。
溜め息を吐きながら、学校の鞄の中に入れっぱなしだった携帯を取り出して電源を入れる。
「…… っ…… 凌のやつ、何だよこの件数…… 病的だね」
―― 『明日から学校に行くよ』
と、だけ書いて送信して、また携帯の電源を落として鞄に戻し、ベッドにうつ伏せにダイブして、目を閉じる。
明日からまた…… つまらない毎日が始まる。
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