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 ―― 偽り(8)

 教室にはもう殆どの生徒が登校していて、友達と雑談をしたり本を読んでいたりふざけあったりして騒ついていた。 (…… 席が何処か分からない)  今日初めて入る教室だから、全員が着席していない限り、自分の席がどこなのか分かるはずもなかった。  入口の前で立ち止まっている僕に気付いた生徒が、隣の友達に目配せをしたりして、教室内にいる生徒達の視線が徐々に僕に集まってきた。  こういう視線にも慣れてる。  誰も僕に話しかけたりなんてしない。 でも、それはそれで、全然平気。 その方が僕にとっては、過ごしやすいから。  友達関係なんて、どうせただの見せかけじゃないか。 そんな面倒臭い関係なんて、もう僕には必要なかった。  僕は教室全体を見渡して、空いてそうな席を探そうとしていた。  人が座っていなくて、鞄が置いてない席。  窓際の一番後ろに、それらしい席を見つけて、ゆっくり歩き出すと、皆の視線も一緒に動く。  ヒソヒソと内緒話の声が、あちこちから聞こえてくる。  ―― ホント鬱陶しい。  他人の事なんて放っておけばいいのに。 どうして人は自分と同じでないものを好奇の目で見るんだろう。  だから学校は嫌い。 「おはようー」  その時、誰かが教室に入ってきて、よく通る声が教室内に響き渡る。 それで皆が、また一斉に入口の方を見たから、僕に纏わり付いていた好奇の目が消えていくのを感じた。  そのまま目的の席まで行こうとする僕を、後ろからさっきのよく通る声が呼び止める。 「あれ? もしかして、鈴宮?」  同級生に自分の名前を呼ばれるのは、いつぶりだろう。 嫌な予感しかしない。  そう思いながら振り返ると、声の主は僕に近づいて来て「鈴宮だろ?」と、また言った。  すらりと身長が高くて、均整のとれた身体をしてる。 日焼けした健康的な肌が運動部なんだとすぐ分かる彼は、僕に爽やかな笑顔を向けてくる。 「…… そうだけど」 「俺、大谷慎矢(おおたに しんや)。 鈴宮の隣の席なんだ。 ずっと休んでるから心配してたんだよ」 (―― 心配だって?)  誰かも同じことを言ってたよね。  心配って、便利な言葉なんだな。 「なんで、心配なんてする必要があるの?友達でもないのに」  僕がそう言うと、大谷慎矢は、驚いたような顔をする。 そして、次に彼の口から出た言葉に、今度は僕の方が驚いた。 「だって……、同じクラスの友達だろ? 友達がずっと休んでいたら誰でも心配するさ」

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