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―― 偽り(7)
「行こ、伊織」
凌はそう言って先生を一瞥してから、僕の肩に腕を回して歩き出す。
「屋上でサボるなよ」
後ろから聞こえてきた先生の声に、凌は「チッ!」と舌打ちをしたけど、それ以上は何も言わずに振り向く事もなく、僕の肩に腕を回したまま人混みを掻き分けて改札へ向かった。
「何だよ、アイツ。 なぁんかムカつくよな」
改札を抜けて石畳の道を歩きながら、隆司だけがブツブツと文句を言っていた。
「…… 明日から車両を変えよう」
凌がポツリと呟いた。
「別に今のままでいいよ。 痴漢ゲームもそろそろ飽きてたし」
凌も気付いているんだと思うけど、多分、車両を変えても今日と同じ事が起こるだろう。
別にそれならそれでも構わない。 どこにいたって、どんなに注意をしていても、毎朝のように興味本位で触ってくるやつはいる。
凌も、別にお金が欲しくてこんな事をしているわけでもない。
だから別に構わない。
先生が痴漢を追い払ってくれるんなら、毎朝僕達を見張っていればいい。
きっと凌も同じ事を考えてる。
(隆司は、違うかもだけど……)
学校に着いて、そのまま教室に向おうとする僕に、凌は耳打ちをする。
「屋上行くか?」
「…… 行かないよ」
「それはそれで、つまらないな」
凌の言葉に、僕は「ふん」と、鼻で笑って背を向けた。
2年と3年では校舎が違う。
「伊織、昼休み屋上にいるからな」
歩き始めた僕の背中に向かって、凌が声をかけてくる。
「…… 気が向いたら行くよ」
肩越しに後ろを振り返って応えると、凌は片手を軽くあげて3年の校舎へ向かって行った。
多勢の生徒達が、それぞれの教室へ向かう慌ただしい時間。 その光景を見ていると、自然に溜め息が漏れる。
―― かったるい……。
久しぶりの学校も、気に食わない教師も、同じ制服を着て、同じような行動しかしない生徒達も。 それから、学校での生活のあれこれに、なんにも興味のない僕自身も。 何もかもが憂鬱だった。
2年になって初めて入る教室の前で、僕はまた溜め息をひとつ吐いた。
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