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―― 希望(33)
*
どれくらいの時間、続いたのだろう。
代わるがわる誰かが後ろを犯し続けていて、もう誰のモノかも分からなくなっているのに、唇を開かされて押し込まれる塊に夢中で舌を這わせた。
何人分もの白濁が後孔から溢れて内腿を伝い落ち、口端からは飲み込み切れないそれが溢れて顎を濡らす。
もう快楽も薄れて何も感じなくて、体液は殆ど色が無くなっているのに、身体はイかされる。何度も、何度も。
でも、こうしている間は、僕は何に悩んでいたのかも、何が辛かったのかも、何がそんなに哀しかったのかも、忘れていた。
最高に幸福だ。
このままずっと時間が止まればいいとさえ思ってる。
頭が朦朧として意識を手放そうとする僕に、凌はまた煙草を吸わせた。
落ちそうになる意識だけが引き戻される。
「――もう止めろよ、伊織が死んじまう」
目の前は暗くてよく見えないけど、何処からか隆司の声が聞こえてきた。
「――っるさいな、犯りたくないんなら、お前は帰れ」
苛立ったような凌の声も……。
二人の会話はそこで途切れて、頭の中にはずっと部屋に流れている音楽が響いていた。
****
エアコンの風向ルーバーがスイングする音だけが聞こえていて、やけに静かだ。
時折、肌を掠める冷風に、身震いした。
――寒い。今何時だろう。
寒くて身体を丸めたいのに、指一本動かせない。
重い瞼を開けると部屋は薄暗くて、間接照明が白い壁を浮かび上がらせていた。
頭が段々とはっきりしてきて、ぼんやりと眺めていたその壁に、父さんの寝室で見た光景を無意識に映し出してしまう。
――思い出したくないのに。
忘れていた絶望が、また襲ってくる。
冷たくて硬い床に背中を付けたまま天井を見上げていると、涙が目尻から零れ落ちた。
肌を伝う涙が熱くて、まだ自分は生きているんだと思い出す。
生きているから絶望もするし、涙を流すんだ。
床に寝たまま辺りを見回すと、ソファーで寝ている凌の姿が見えた。
他の男達の姿は見えない。
「……りょう……」
絞り出すように出した声は、自分でも驚くほど掠れていた。
凌が目を醒ます気配はない。
僕をこの絶望から救ってくれるのは、凌しかいないような気がしていた。
あの、何もかも忘れることができる、快楽しか感じない世界をくれるのは、凌だけなんじゃないかと。
「……う……」
急激に吐き気が込み上げてくる。
だけど身体は動かせなくて、胃から迫り上がってくる感覚に必死に堪えるしかない。
その時、不意に玄関の方から音が聞こえたような気がした。
だけど動けなくて、何の音か確かめる気力もない。なんとか身体を横向きにして、吐き気をやり過ごそうとするのに精一杯だった。
部屋のドアが開いて、誰かが入って来た気配がする。凌の友達の誰かが帰ってきたのだとばかり思っていた。
「……伊織か?」
すぐ傍で、誰かが小声で僕の名前を呼んだ。
誰だろう……。
最初は、その男の声が誰なのか、全然分からなかった。
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