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第1話

 恋の幽体離脱  11月になると京都は紅葉目当ての観光客が増えてくる。だからその前の今はちょうど穴場と言えた。  東寺の弘法市で朝から時間をつぶし、午後は市内のアンティークショップを見て回る。  明日は白川のほうからずっと流すつもりだ。  俺の仕事は骨董屋だ。今回は観光も兼ねた骨董品の買い出しだった。  京都は好きで何回も来ている。歴史を感じさせるいい所だ。  泊まるのは京都の心霊スポットのひとつであるCTホテル。幽霊が出たり怪奇現象が起きたりするという噂が、以前からあった。その噂のせいなのか宿泊料金が比較的リーズナブルなので、今回の京都出張で利用してみたのだ。  俺、湯橿亮(ゆかしりょう)はいわゆる『見える体質』だった。  小さいころからなので見えてもなんとも思わない。  霊なんざへでもねぇ。  生きてる人間のほうがよっぽど恐ろしいだろう。  仕事がうまくいって上機嫌の、一人での祝杯。  まつたけの土瓶蒸しを頼むくらいには機嫌がいい。  東京じゃあ恐ろしく高価だが、京都では良心的な値段で味わえる。  気ままに飲んで食って酔いもまわって、こころもほぐれて、良い加減になって宿泊先のこのホテルへと俺は戻った。  時刻は23時。  俺は部屋に入るとカーテンを開いた。  今日は流星群が見られる日だそうだ。  このホテルは繁華街から歩いて6.7分のところで微妙に陰りがある。  南向きで通りに面している部屋だが、街灯りは落ち着いて来ているし、ホテルの上階だから   うまくしたら流れ星が眺められるかもしれない。  今夜はカーテンを開けたまま寝よう。  意外にロマンティストな俺はそう決めてからバスルームへと向かったのだ。  シャワーを浴びてさっぱりとしたところで、冷やしておいた缶ビールをあおる。こういうのはむかい酒というのだろうか。ちょっと違うか。  今日は飲みたい気分だったのだ。  喉にしみる苦みをじっくりと味わいながら、俺は窓辺に佇む。  暗い空。  天をうかがい、しばらく待ってみるが、なかなか流れ星は現れない。  もっと遅い時間にならないと見えないのかもしれない。  そう言えば、俺にはさして叶えたい願いもないな。  子供じみていたかなと多少反省する。  そして流れ星をあきらめていざ寝ようとした時だった。  窓の外になにかがいた。

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