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第2話 カラスのひと差し

烏丸という俺の苗字と、黒々とした俺のナニを指して名付けられたそうだ。 性に奔放で挙げ句の果てに大学を辞めて田舎を飛び出した俺にとって、ここは似合いの島だった。 俺はこの島で、誰とでも寝た。 キスして、扱いて、喘いで、出す自分を、もうひとりの冷静な自分が観察している。いつからかそんな錯覚をするようになった。 もう、抱擁を心から楽しめないのかもしれない。 溺れるほどの夜はもう、俺には来ないかもしれない。 一年前、いつものように名前も知らない男を抱いた朝、ふとそう思ったのだ。ちょうど、居酒屋で男たちの見合いが順調に行くようになっていた頃だった。 「烏丸さん。タチやめるんなら、俺と一発しませんか?」 「ははは。なんでだよ」 「怖っ、目が笑ってねえ」 「誘い方が下手すぎんだよ、どいつもこいつも」 俺は寝ている男に視線をやった。客も男を見る。 「こいつも頼んできたんだよ。『俺としましょう』ってさ」 「へえ、イケメンだしマッチョじゃん。いいんじゃね、やってみれば」 「そういう問題じゃねぇんだわ。いや、まあ、そういう問題だな……」 「……ふわ。あ、烏丸さん。烏丸さん。いますか?」 「はい、いますよ」 「考え、変わりましたか」 「いや、やっぱり、一晩でその経験は……タチとネコいっぺんにやるのは感情のジェットコースターがすごそう。俺、ネコやったことないし」 「うわ、なに、そのハードスケジュール」 「さすがにびっくりするでしょ?」 「そんな烏丸さん! 俺、あと一日しか滞在できないんですよ」 男は叫んだ。 「俺の処女と童貞をもらってよ、烏丸さん!」 「いきなりタチとネコをやったら、自分のポジションがわからないんじゃねーか?」 俺は、男のテーブルに水を置いた。さっきの客は笑いながら、帰っていった。帰り際、俺の耳元で、「ひと肌脱いで、枯れた花を咲かせる。一石二鳥ですね」とか言いやがった。 「俺。烏丸さんのなかで暴れてイッてみたいです。でも反対もどんな感じか知りたくて」 「下手くそで熱烈な口説き文句だなあ」 「SNSで見たときから気になってて」 「SNS? 店ではやってないぞ?」 男はスマホを取り出した。画面をスクロールさせる。 「ほら、『雄音島はぼっちになっても安心。渋いカラスが癒してくれる』って」 客の誰かと撮った写真を、俺の写っているところだけトリミングされて載っていた。 抱いたあとに一枚撮影する。よくあることなので、誰がネットに載せたかさっぱりわからない。怒ることではない。クチコミで店が賑わうなら、俺の懐も下半身も潤う。

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